悲劇的なバラッド

金持ちと結婚することで、自分も裕福な立場になることを俗に『玉の輿』と言いますけど、昔は富や地位を高めるための当たり前の概念でした。イギリスのバラッドの一つに『Lord Thomas and Fair Ellender』というものがあります。「貧乏だけど美人」を取るのか「美しくないけど金持ち」を取るのか、三角関係が悲劇を引き起こすバラッドです。もちろん、バラッドですから様々なタイトル/バージョンが残されています。興味深かったことは、イギリスで忘れかけられていたバラッドが、海を渡り、アパラチア山脈の民謡として残っていることです。

ジーン・リッチー(Jean Ritchi)は、アメリカ、ケンタッキー州出身のフォークシンガー、ソングライター、アパラチアン・ダルシマー奏者。アパラチア地方の伝承民謡を受け継いだ音楽一家に生まれたそうです。


彼女の歌う『Lord Thomas and Fair Ellender(またはEllinor/Eleanor/Ellendry/Annet)』で、トマス卿は母親に尋ねます。美人のエレンダーと結婚すべきか、それともブラウン家の子と結婚すべきか。母親は的確なアドバイスをします。ブラウン家の子は土地も家も持ってるけど、エレンダーは何も持っていないから、ブラウン家の子を連れてくるべきねと。ところがトマス卿の心は美人のエレンダーにあり、彼女を自分の結婚式に招待するのです。(えっ!)今度は結婚式に招待されたエレンダーが母親に尋ねます。トマス卿の結婚式に行くべきか、それとも家に留まるべきか。そして彼女の母親も、親らしく賢明に答えます。ブラウン家の子は何でも持ってるけど、あなたは何も持っていないから、ここに留まって嘆きなさいと。ところがエレンダーは母親の助言を聞き入れず、一張羅を着てトマス卿の結婚式に行くのです。(えっ、行っちゃうの?)そこで悲劇が起こります。嫉妬からかナイフを隠し持っていた花嫁(ブラウン家の子)がエレンダーを刺し、今度はトマス卿がブラウン家の子を刺し、最後にトマス卿が自ら命を絶つという。。。簡単に言えば最後にみんな死んでしまう、そんなストーリーです。

ストーリーには様々な解釈があります。何せむかーし昔のバラッドですからね。現代の感覚で言えば、トマス卿が優柔不断だったのかとか、自分の結婚式に好きな子を呼ぶ心理とか理解に苦しみますけど。。。でも昔の結婚は自由ではなかった。家族のための結婚だった訳です。でも、そういうバラッドが残されているというのはちょっと面白いなぁと思いました。

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