イギリス河川名の由来

イギリス河川名の由来について調べました。個人の趣味の範囲内でご覧ください(情報収集・翻訳 by i-ADNES)。

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重力により、大地を低い場所へ低い場所へとたどっていく川。遠い昔のこの国(英国)への移住者は当然ながら海を渡り、全て水路を通じ、航行可能な川から内陸へ内陸へとやって来た訳です。イギリスにおける主要な河川名は、鉄器時代以前(pre-Celtic)から存在する言葉に起源を持つことが判明している『Wey』、『Wye』、『Colne』、『Itchen』、『Tyne』などを除き、そのほとんどは鉄器時代(Iron Age)以降の名前で、単純に「川」または「水」を意味する言葉に由来していると言います。例えば『アックス(Axe)、エクセ(Exe)、エスク(Esk)とアスク(Usk)』は全てブリソン諸語『isca』から派生したもので、単純に「水」を意味します。また、一般的な『エイボン(Avon)』やウェールズ語の『アフォン(Afon)』、ゲール語の『アビーン(abhainn)』はどれも「川」を意味するブリソン諸語の『abona』に由来します。つまり、イギリスにいくつか存在する「River Avon」 は厳密に言えば「リバー・リバー」と重ねて表現していることになるんですね。

また、エイボンと同様に一般的な名前である『ウーズ(Ouse)』も 「水」という意味と考えられています。これはギリシャ語(hudor)、ロシア語(voda)、ドイツ語(wasser)、フランス語(eau)などにも派生したインド・ヨーロッパ語族系(Indo-European)の『udso』あるいは『uss』を祖語とするそうです。ケルト語の『ud』やアングロ・サクソン語の『use』も同様で、後に「Ouse」となった。現代英語の「水(Water)」も「カワウソ(Otter)」も同じ語源を持つそうです。

イギリスで最も代表的な『テムズ川(River Thames)』。実はこれも最も古い名前の一つで、前ローマ時代には『Tamasa』、ローマ帝国時代には『Tamesis』、アングロ・サクソン時代には『Tamisa』と呼ばれていました。これもまた、インド・ヨーロッパ語族系(Indo-European)サンスクリットの『tames』に由来し「暗い川」を意味するそうです。『h』はノルマン時代に追加されたもの。また、『Tame』、『Tamar』、『Tavy』、『Teme』、『Thame』、『Tay』、『Tyne』、ウェールズの『Taf』と『Taff』も「暗い川」を意味し、おそらく鉄器時代以前(pre-Celtic)の同じ語源ルートから派生したものと考えられています。

River Thames
  • 『トレント(Trent)』はローマ時代『Trisantona』と呼ばれ、ケルト語から派生した『~を貫いて、横切る(tri)』+『道路、道のり(santon)』から『侵入者、横断するもの』、つまり道を横断する水ということで「氾濫しやすい川」を意味する。『タラント(Tarrant)』も同様の語源。
  • 『ハンバー(Humber)』は8世紀には『Humbrae』と呼ばれ、おそらく「良い」を意味する『hu』または『hy』と、「河口」を意味する『ambhas』または『ambro』の2つのケルト語に由来している。これは後のウェールズ語の『aber』も一緒。この河口がどういった意味(漁業?宗教的?)で「良い」だったのか、その理由は分かっていない。破壊的な川の神を鎮めるために皮肉でそう命名されたという説もある。
  • 『ウォッシュ(Wash)』は、干潮時に徒歩で到達できた砂州を指す。もともとこの砂州を横切る潮汐の動きを指したアングロ・サクソン語の『gewaese』が、その後『wasshe』となり、のちに河口全体を指すようになった。
  • 『アーウェル(Irwell)』はアングロ・サクソン語の『ere-well』に由来し「白灰色がかった、白い湧き水」を意味する。
  • 『マージー(Mersey)』は比較的新しい名前で、ドゥームズディ・ブックにある『Merse』は、明らかに「境界川」を意味するアングロ・サクソン語の『maere』と『ea』に関係がある。事実、マーシアとノーサンブリアの王国を分離する「境界」を成していた川である。
【川の状況を示す形容詞に由来する名前】
川の状況を表現した形容詞の単語に由来する川の名前があります。例えば、ノーサンバーランド(Northumberland)の『ブライス川(the River Blyth)』は、「心地よい」あるいは「穏やか」を意味するアングロ・サクソン語の『blithe』に由来します。同様に『スタウア(Stour)』は「強力な(Strong)」を意味する言葉から来ているそうです。他に、
バークシャー(Berkshire);
  • 『ブラックウォーター(the Blackwater)』は「暗い色の流れ」
  • 『ランボーン(Lambourn)』は「子羊たちが洗われる小川」
ハンプシャー(Hampshire);
  • 『ハンブル(Hamble)』は「曲がった」
  • 『メディナ(Medina)』は古英語の『Meðune』に由来し「ミドル、真ん中」
ドーセット(Dorset);
  • 『ピドル(Piddle)』は「湿地」
【信教的な名前】
ウェールズとイングランドを流れる『ディー(Dee/ウェールズ語のDyfrdwy)』はブリソン諸語の『Deva(女神)』に由来し「聖なる川」を意味します。ディー川の近くに暮らした中世の人々は、その流れが人々に幸運をもたらすと信じていたそうです。

『セヴン(Severn)』は、ローマ時代には『Sabrina』、8世紀には『Saeferne』、現代のウェールズ語では『Hafren』と呼ばれ、川の女神(goddess Sabrina)の名前に由来するという説があります。おそらくアイルランドの『シャノン川(the River Shannon)』とウィルトシャーの『セイバーネイク・フォレスト(Savernake Forest)』と同じルートであるケルト語に由来すると考えられていますが、元の意味自体は失われてしまい、由来は定かではありません。

River Severn

【小さな川の名前】
大きな川の大半は、一般的にブリソン諸語(またはそれ以前の言葉)から派生した名前である一方で、マイナーな川や小川のほとんどはアングロ・サクソン(Anglo-Saxon)やスカンディナヴィア(Scandinavian)の集落に関係があります。例えば、カンブリアを流れる『ロタイ(Rothay)』は「赤いもの」を意味する『Rathui』、ランカシャーを流れる『ウィンスター(Winster)』は「左側の」を意味する『vinstri』、ヨークシャーを流れるの『スケル(Skell)』は「音が鳴り響く」を意味する『skjallr』と、それぞれスカンディナヴィア出身の入植者たちによって用いられた古ノルド語に由来しています。また、マイナーな川でもブリソン諸語に由来する名前は、カンブリア地方や西部地方に集中しているのだそうです。
カンブリア(Cumbria);
  • 『カルダー(the Calder)』;「暴れる、急速な川」
  • 『カム(Cam)』;「曲がった」
  • 『ダクレ(Dacre)』;「ちょろちょろ流れる」
  • 『リン(Lyme)』;「滑らかな」
サマセット(Somerset);
  • 『ダイブリッシュ(Divelish)』;「暗い流れ」
  • 『フルーム(Frome)』;「活発な、元気のよい」
  • 『リデン(Lidden)』は「幅の広い」
  • 『ライム(Lyme)』;「洪水のようにあふれる」
  • 『ウィンフォード(Wynford)』;「白い流れ」
ドーセット(Dorset);
  • 『ブルー(Brue)』;「力強い、活発な」
  • 『チュー(Chew)』;「鶏たちの川」
ヘレフォードシャー(Herefordshire);
  • 『リードン(the Leadon)』;「黒い流れ」
  • 『ラグ(Lugg)』;「明るい流れ」
シュロップシャー(Shropshire);
  • 『ダウルズ(Dowles)』;「黒い流れ」
  • 『ローデン(Roden)』;「急な、速い流れ」
  • 『テルン(Tern)』;「力強い」
【逆の手順で付いた名前】
ふつうの派生語とは逆の手順で付けられた名前もあります。例えば、チェルムスフォード(Chelmsford)の町は、まず「Ceolmaerのフォード*」として名付けられた後に、川は『チェルマー(Chelmer)』として知られるようになりました。同様に『カム(Cam)川』は「ケンブリッジ(Cambridge)」にちなんで、『ワンドル(Wandle)川』は「ワンズワース(Wandsworth)」にちなんで名付けられています。『モール(the River Mole)』は、小動物モグラにちなんで名付けられたのではなく、『Molesey』という町の名前から付けられています。つまり、これらは先に付けられた地名を収縮させることで川の名が形成されている訳です。

River Chelmer

因みにフォード(Ford*)とは浅瀬を意味し、今でも下の写真のような浅い川に突っ込んでいく道路が多く存在し、フォードと呼ばれています。


【周辺の木や動物に因んで付けられた名前】
  • 『ダーウェント(Derwent) 』、『ダート(Dart)』、「ダレント(Darent)」は「オーク(oak)」を意味するブリソン諸語の『drva』から「オークが育つ川」を意味し、周辺のオークの木の存在を反映しています。恐らくはオークの森を流れる川だったと考えられているそうです。因みに『イワーン( River Iwerne);イチイの木(yew)』、『アン(River Ann);トネリコの木(ash)』、『レム(River Leam);ニレノ木(elm)』も同様。
  • また、動物を指す古代ケルト語やブリソン諸語から付けられた『オック(the River Ock);サーモン(salmon)』、『ラフエルン(River Laughern);キツネ(fox)』、『ヤルティ(River Yarty);クマ(bear)』というのもあります。
参照;
  • Tracing The History of Place Names, Charles Whynne-Hammond, Aspects of Local History Series
  • A Dictionary of English Place-Names, A.D. Mills, Oxford
  • The Book of English Place Names,Caroline Taggart, Ebury Press
  • The Concise Oxford Dictionary of English Place-names, Eilert Ekwall, Oxford
  • https://canalrivertrustwaterfront.org.uk/culture/the-etymology-of-river-names/
  • https://kids.kiddle.co/List_of_rivers_of_England
  • Wikipedia

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