空蝉。

『空蝉(うつせみ)』とは、セミの抜け殻を指す言葉。ミーンミーン、ジージー。子どもの頃、夏休みに祖父母の家に遊びに行ってセミの抜け殻を何度か発見しました。さて今回、ホリデーを過ごしたクロアチア。ここでもセミが鳴いていましたね。散歩の途中で近づいても逃げもせず、何かを必死に突いている鳥がいました。よーく見ると、突いているのはセミ。自然の摂理とはいえ、その瞬時を目撃してしまうと、あぁ、セミの命も儚いなって思ってしまいました。


そう言えば、『源氏物語』にも空蝉と呼ばれる女性が登場しましたね。どんな女性でしたっけ?控えめで慎み深く、小柄で地味ながら、品のある女性。一度は源氏に身を許し、惹かれつつも、自分の立場を理解し、再び口説かれても決してなびかなかった強い女性。彼女を忘れられない源氏が夜にそっと忍び込むも、芳しい源氏の香りを察知した空蝉が小袿を脱ぎ捨てて逃げちゃうんですね。そしてセミの抜け殻のように残された衣に思いを寄せて源氏は空蝉に歌を送るんです。
 
『空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな』。これは、「セミの抜け殻のように衣を脱ぎ捨てて去ってしまったけれど、それでもあなたの人柄が懐かしい」ってな感じの意味だそうです。こうして、空蝉は源氏の「忘れられない女」の一人になるのです。
 
この『うつせみ』という言葉には、他に古語の「現人(うつしおみ)」が訛って、「この世に人としての姿を現しているもの。この世に生きている身。この世に生きている人間」という意味もあるそうです。という事は私たちもある意味『空蝉』なんですね。

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