暗闇。

無人駅を降りて最寄りの町まで1マイルちょっと。小さなスーツケースをガラゴロ引きずりながら歩きました。魅力的な田舎町にはスターバックスやコスタなどのカフェ・チェーンはたいてい進出していない。そして地元ならではのローカルな店が建ち並んでいる。インフォメーションセンターでバスの時刻表をもらいましたが、目的地の村まで2時間に1本というバス・サービス。それもイギリスの田舎ではあまり珍しいことではありません。その日はなぜか地元タクシーも捕まらず、夕方まで2時間待ちとなりました。人生のんびり旅。取りあえずスーツケースをガラゴロ、人目を引きながら町を散策した後は、時間までカフェでのんびりすることに。

タクシーが到着した頃には日も暮れて外は真っ暗。町を離れるととにかく真っ暗。見えるものは車のヘッドライトに照らされるものが全てで、タクシーの窓からほとんど何も見えませんでした。私たちが宿泊したのはある村の朽ち果てた農場を買収し、その建物をモダンな部屋へ改装したという農場に囲まれたお宿。その村には茅葺屋根のお家が多く立ち並び、番地の代わりにどの家にも可愛らしい屋号がついていました。ある晩、夕飯を食べに村のパブへ行くことに。ところが冬で日も短いので外は真っ暗。街灯が一つもないことに驚きました。村のメイン・ストリートに出ても街灯がない。とにかく足元が見えない。唯一、たまに人感センサーで反応した家の街灯と通り過ぎる車のライトが頼り。こんな真っ暗闇を歩くのは久しぶりでした。
 
 
ふと、東日本大震災の時を思い出しました。職場から叔父と祖母の住む家へ立ち寄り、そこから自宅へ帰る時にはすっかり日も暮れていて、街の明かりが全て消え、異様に静まり返った真っ暗闇を一人歩いて帰りました。空は驚くほどの満天の星空で今までに見たことがないほど綺麗だったのが印象的でした。地割れや落下物があるかもしれない地面は何も見えず、時折不安と恐怖を覚えながら、ただひたすら自宅へ向かって歩きました。
 
日本に比べるとイギリスの夜は暗いです。街灯も蛍光灯ではないし、経費削減のため深夜には街灯が消されたりもする。でも本来の夜というものは、月が出ていなければ真っ暗。それが当たり前なんですよね。田舎で過ごすと新鮮な空気だったり、当たり前のことに再度気付かされます。多くの人はちょっとそこまで行くにも車で出掛けるので、あの村の真っ暗闇を『歩く』という人も少ないんでしょうけど、でも久しぶりに経験した本当の真っ暗闇でした。

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