小麦粉を買いなはれ。

1086年のイングランドには6,000以上もの水車が存在したとドゥームズデーブック(Domesday Book)に記されているそうだ。私が日本で最後に見たのはこの遠野(岩手)の水車かな。昔から世界各国に存在してきたものとは言え、水車のある風景はどこで見ても風情がある。


ヨーロッパで使用されていた初期の水車は水平式(the horizontal wheel mills)が主流だったようで、クラック・ミル(clack mills)やノーズ・ミル(Norse mills)として知られる水平式水車は今でもオークニー(Orkneys)やシェットランド(Shetland)に存在するそうだ。で、一般的なのがこの垂直式(the vertical wheel mills)。


ミルには回転軸の向きや回転方向、速度などを変えるのに不可欠な「歯車・ギア(Gear)」が使用されている訳ですけど、ギアというと私は長年謎とされてきた古代ギリシャの歯車式機械『アンティキティラ島の機械(Antikythera mechanism)』を思い出します。ギアそのものは複雑ながら、かなり昔の発明だったってことですよね。


水車はいわば水力を利用した製作所。穀物だけではなく、製材やら織物なんかにも活用されてきた訳です。先日、そんな水車のある町ウッドブリッジ(Woodbridge, Suffolk)を再び訪れました。ここはイギリスでも珍しいタイド・ミル(Tide Mill)があるところ。つまりは潮の満ち引きを利用した水車のことです。普段の川の水の流れを利用するのではなく、満潮時に水を貯え、干潮時に一気に水を吐き出して水車を回す。だから動かせる時間も日々違う。現在、ここの水車小屋は博物館になっていて、行ったその日は製粉の実演もありました。水が流され水車が動き出すと、連結したギアを通して下から上へ、建物全体に命が吹き込まれて行きます。そしてギアで分散されたパワーは、さらに別の作業工程へと無駄なく利用されていく。ゴウゴウとうなりを上げながら建物を揺さぶるような振動は迫力満点でした。


そうして石臼で挽かれた粉は白い煙を上げながら、下で待ち受ける袋の中へと落ちていく。そんな楽しい製粉現場を目の当たりにすると、ここで挽かれた珍しい小麦粉を買いたくなる。ってことでお買い上げです(笑)。
 
 
参照;

コメント