インブロイダリ

つい最近、BBCで『ファブリック・オブ・ブリテン(Fabric of Britain)』というドキュメンタリーを放送していました。3回シリーズで1回目は編み物、2回目はウィリアム・モリスに代表される壁紙、そして3回目がこのインブロイダリ(Embroidery)でした。訳すと「刺繍」ですけど、刺繍にもいろいろ種類がありますよね。私、クロスステッチは好きですが、その他の刺繍はやったことありません。でも興味はあるの~。

番組では『バイユーのタペストリー(Bayeux Tapestry)』を紹介していました。これは1066年のノルマン・コンクエストの物語を描いた有名な刺繍画で、長さ230ft(約70m)に及ぶ作品だそうです。そして、タペストリーと呼びつつ、インブロイダリだった訳で、まさに誤まった解釈がされていたことになります。私もイマイチ理解していませんでしたけど、タペストリーとは技術織物で、インブロイダリは針と糸で装飾を施していく刺繍をいいます。中世時代、多くの人々は文字を読むことが出来なかったため、絵を見て理解していた訳ですよね。教会の絵やステンドグラス、像など、中世時代のすばらしい作品は、改革等によりその大部分が紛失しています。インブロイダリも同じ。残された中世のインブロイダリは、当時の人々の生活を知る手掛かりの一つでもあります。この『バイユーのタペストリー』、フランス北西部にあるカーンのバイユー美術館で展示されているそうです。見てみたい~っ♪


Bayeux Tapestry の一部(Wikipediaより)

中世イギリスで行われていた刺繍は、オーパス・アングリカナム(Opus Anglicanum)あるいはイングリッシュ・ワーク(English Work)として知られています。技術は高く、リネンあるいはベルベット等に金銀の糸を使用し、外交ギフトなどの高級品として扱われていました。とりわけ聖職者やローマ法王、王族の衣装などに望まれたそうです。1295年のバチカンの資産目録には113品以上もの品がイギリス製だったと記されているのだとか。

オーパス・アングリカナムはスリップ・ステッチとコーチング・ステッチ(太い飾り糸などを別の糸で止める)で施されています。顔の一部を刺繍するのに約6時間もの時間を要する細かな刺繍なのだとか!ロンドンのギルド内では、高い技術を習得するに7年もの年月を要したそうです。その技術はまさに芸術です!14世紀後半になると、黒死病(the Black Death)により、オーパス・アングリカナム産業も衰退します。回復を試みますが時既に遅し。オランダのインブロイダリ産業が金を使用し、『Or Nue (shaded gold)』として知られる革新的な技術を用いて主導権を握ることとなるのです。

博物館などに飾られている織物や刺繍。『すごいね、奇麗ね』って流して見ちゃうんですけど、背景を知るともうちょっとじっくり見たくなりますね。

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