穴の開いた石。

前回、イギリスのコーンウォールにある『トレスヴィー・クォイット(Trethevy Quoi)』の支石墓の天井石には穴があいていると書きましたが、実際に穴の開いた石というのは結構あるんですね。例えば、同じコーンウォールにある『メンアントール(Mên-an-Tol)』も、コーンウォール語でそのまま「穴の開いた石(the stone of the hole)」を意味する古代遺跡です。

Source; Wikipedia
Churches of West Cornwall with Notes of the Antiquities of the District - Mên-an-Tol
John Thomas Blight(1835-1911)

これらは、3つの直立した花崗岩の石で構成されており、その真ん中にある穴のあいた丸い石が『メンアントール』と呼ばれているものです。実は、もともと一線上にこの3つの石が並んでいた訳ではなく、1815年以降に最西端の石が移動され、他の2つの石と一直線になったのだとか。2つの立石はいずれも高さ約1.2m。穴の開いた石の輪郭はほぼ八角形で、幅1.3m、高さ1.1m、円形の穴の直径は0.5mだそうです。角度によってこの3つが立体的な「101」みたいに見えるというのが面白いですね。

古い習慣では、四つん這いになり太陽と逆方向に、石の穴を9回通り抜けると腰痛、神経痛、背中の凝りなどの痛み(crick)が治ると信じられてきました。そのため、地元では『クリック・ストーン(Crick Stone)』としても知られています。 また、幼い子供たちも健康に育つようにとの願いを込めて、裸の赤ちゃんや子供を太陽と逆方向に3回穴に通すなどという話もあるようです。それは『メンアントール』には、奇跡的な治療を行うことのできる妖精またはピクシーの守護者がいると信じられてきたためです。太陽に逆らうことは痛みからの解放、病気を治すという概念に基づくものですが、周辺地域の古代の民間伝承では太陽の進路方向に従うというものが一般的のようです。

さて、この『メンアントール』の起源は、新石器時代後期または青銅器時代初期のいずれかにまでさかのぼると考えられています。立石はもともと18~20個の石から成るストーンサークルで、穴の開いた石は近くの墓の一部であったと考えられています。そして、これまた説明によると、穴の開いた石は、意図的に彫刻されたのではなく、もともと自然発生であった可能性があると書かれているのです。これも人工じゃないの!?不思議。穴の開いた石には何か意味があるのでしょうか?

確かに、先史時代のコーンウォールでは、穴の開いた石は稀だそうですが、実は古くから、自然に穴の開いた小石は『ハグストーン(hag-stone)』と呼ばれ、人や獣を守る魔法のお守りとして用いられてきたそうなのです。ハグには魔女という意味があり、これは、ほとんどの病気は、もともと邪悪な魔術のようなものによって引き起こされるという古代の概念に基づいています。

Source; 
https://witchipedia.com/book-of-shadows/minerals/hag-stone/

他にも『ウィッチストーン(witch-stone)』、『ホーリーストーン(holey-stones)』、『ホールドストーン(holed-stone)』、『フェアリーストーン(fairy-stones)』、『オーディンストーン(Odin-stones)』、『スピンドルワールストーン(spindle-whorl)』、『アダーストーン(adder-stones)』(北東地方)等の呼び名もあるそうです。例えば、『フェアリーストーン』は、石の穴から妖精が見えるという伝統に由来し、妖精からの保護が得られることから、『アダーストーン』は、ヘビに噛まれた時に保護されると考えられていたなど、由来によって呼び名は様々ですが、それらは魔術を撃退し、その結果、呪文や邪眼によって引き起こされる病気を撃退すると信じられていたそうです。小さいものはポケットに入れて運んだり、また妊娠するようにベッドに掛けたり、まさに神頼みのお守りだった訳ですね。自然な穴の開いた小さな石というのは、個人的にあまりなじみがなかったのですが、主に海や川など流れのある水中などでみられるようです。

自然な穴という訳ではありませんが、石ということで私が真っ先に思い浮かべたのは、日本の『勾玉(まがたま、曲玉とも表記)』でした。勾玉の詳細は分かっていないものの、先史・古代の日本における装身具の一つで、祭祀にも用いられたと言われているものです。語源は「曲っている玉」から来ているという説があります。私自身、小学生の頃に黒くてツルツルした小さな平べったい石を宝物にしてました。なんてことのない石でしたけど、そのツルツル感が当時の自分にとっては特別に思えたんですね。そのように古代の人々は自然な穴の開いた石を見て、何か特別なものを感じ、神聖な力が宿っていると考えたのかもしれません。
  • https://www.oxfordreference.com/view/10.1093/oi/authority.20110803095941856
  • http://www.timecircles.co.uk/pages/mon_holed.htm
  • https://www.sacred-texts.com/neu/celt/swc2/swc254.htm
  • https://www.heritagegateway.org.uk/Gateway/Results_Single.aspx?uid=424271&resourceID=19191
  • https://witchipedia.com/book-of-shadows/minerals/hag-stone/

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