川のはなし。

子どもの頃、田舎の祖父母の家へ遊びに行くたびに、近くの田んぼに囲まれた小さな川で遊んでました。その先は蛇行していて、林の木々が覆いかぶさった暗いイメージがあり、普段はそこまで行くことはなかったのですが、ある日、父と姉と川の中を歩いて行ったら水面に赤い椿の花がたくさん落ちていて、ものすごく綺麗だったことを今でも覚えています。私には、まるでそこにだけ後光が差すように、キツネにつままれたような不思議で美しい空間に見えたんですね。だから「川」というと私はその時の光景を真っ先に思い浮かべるのです。

私が生まれた宮城県には、阿武隈川や名取川、鳴瀬川、北上川、七北田川など、主要な川が流れていて、バーベキューとは別に、秋になるとグループで河川敷などに集まり、サトイモを使った鍋料理を食べる『芋煮会』という恒例行事があります。また、川沿いを歩く鳴子峡遊歩道も素敵ですし、近県でいうと、岩手県の厳美渓(有名な空飛ぶ郭公だんごが懐かしい!)や、遠野のカッパ淵の独特な雰囲気も素敵でしたね。そんな川にまつわる思い出を振り返りながら、現在私が住むイギリスの川の名前の由来を調べてみました。


岩手県遠野 カッパ淵

重力により、大地を低い場所へ低い場所へとたどっていく川。遠い昔のこの国(英国)への移住者は全て水路から到達し、航行可能な川から内陸へ内陸へとやって来たんですね。イギリスにおける主要な河川名は、鉄器時代以前(pre-Celtic)から存在する言葉に起源を持つことが判明している『Wey』、『Wye』、『Colne』、『Itchen』、『Tyne』などを除き、そのほとんどは鉄器時代(Iron Age)以降の名前で、単純に「川」または「水」を意味する言葉に由来していると言います。例えば『アックス(Axe)、エクセ(Exe)、エスク(Esk)とアスク(Usk)』は全てブリソン諸語『isca』から派生したもので、単純に「水」を意味します。また、一般的な『エイボン(Avon)』やウェールズ語の『アフォン(Afon)』、ゲール語の『アビーン(abhainn)』はどれも「川」を意味するブリソン諸語の『abona』に由来します。なので、厳密に言えばイギリスにいくつか存在する「River Avon」 は「リバー・リバー」と重ねて表現していることになるんですね。そう言えば地名にもありました。湖水地方で有名な『グラスミア(Grasmere)』も(川ではないですが)「湖・湖」と重ねて表現した意味でした(地名の由来参照)。面白いですね。

また、エイボンと同様に一般的な名前である『ウーズ(Ouse)』も 「水」という意味と考えられています。これはギリシャ語(hudor)、ロシア語(voda)、ドイツ語(wasser)、フランス語(eau)などにも派生したインド・ヨーロッパ語族系(Indo-European)の『udso』あるいは『uss』を祖語とするそうです。ケルト語の『ud』やアングロ・サクソン語の『use』も同様で、後に「Ouse」となった。現代英語の「水(Water)」も「カワウソ(Otter)」も同じ語源を持つそうです。

イギリスで最も代表的なテムズ川(River Thames)。実はこれも最も古い名前の一つで、前ローマ時代には『Tamasa』、ローマ帝国時代には『Tamesis』、アングロ・サクソン時代には『Tamisa』と呼ばれていたそうです。これもまた、インド・ヨーロッパ語族系(Indo-European)サンスクリットの『tames』に由来し「暗い川」を意味するそうです。『h』はノルマン時代に追加されたそうです。また、『Tame』、『Tamar』、『Tavy』、『Teme』、『Thame』、『Tay』、『Tyne』、ウェールズの『Taf』と『Taff』も「暗い川」を意味し、おそらく鉄器時代以前(pre-Celtic)の同じ語源ルートから派生したものと考えられています。

River Thames

単に「水」や「川」を意味する名前の他に、川の状況を表現した形容詞の単語に由来する河川名も数多く存在します。例えば、ノーサンバーランド(Northumberland)の『ブライス川(the River Blyth)』は、「心地よい」あるいは「穏やか」を意味するアングロ・サクソン語の『blithe』に由来します。同様に『スタウア(Stour)』は「強力な(Strong)」を意味する言葉から来ているそうです。他に;
バークシャー(Berkshire);
  • 『ブラックウォーター(the Blackwater)』は「暗い色の流れ」
  • 『ランボーン(Lambourn)』は「子羊たちが洗われる小川」
ハンプシャー(Hampshire);
  • 『ハンブル(Hamble)』は「曲がった」
  • 『メディナ(Medina)』は古英語の『Meðune』に由来し「ミドル、真ん中」
ドーセット(Dorset);
  • 『ピドル(Piddle)』は「湿地」
等があります。今回は一部を紹介しましたが、後日「河川名の由来」のページに加筆して掲載する予定です。

さて、言葉の由来を調べていると必ずぶち当たる語源の壁。複雑です。余談ですが、下図はミンナ・サンドバーグ(?でいいのかな?Minna Sundberg; 1990-)というスウェーデン生まれのフィンランド人イラストレーター・漫画家さんが描いた「言語の起源を示した図」です。家系図は木の枝のように分かれていくことから「ファミリー・ツリー(Family Tree)」といいますが、同様に原語グループを家族と捉えて描かれたとても素敵なイラストです。


Source; https://mymodernmet.com/comic-artist-illustrated

参照;
  • Tracing The History of Place Names, Charles Whynne-Hammond, Aspects of Local History Series
  • A Dictionary of English Place-Names, A.D. Mills, Oxford
  • The Book of English Place Names,Caroline Taggart, Ebury Press
  • The Concise Oxford Dictionary of English Place-names, Eilert Ekwall, Oxford
  • https://canalrivertrustwaterfront.org.uk/culture/the-etymology-of-river-names/
  • https://kids.kiddle.co/List_of_rivers_of_England
  • Wikipedia

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