フリング・ミル

コルチェスターにあるボーン・ミル(Bourne Mill, Colchester)は、現在ナショナルトラストが管理する水車小屋で、敷地は広くありませんが水辺に可愛らしい水車小屋が建っています。この建物自体は1591年に釣り用の小屋として建てられたものだそうですが、ボーン・ミルの歴史は古く、1000年以上も前に修道士たちが食料として釣りをしていたことを記す文書に池とミルが登場しているようです。また、敷地内では色々なハーブが採れることでも知られているのだとか。


 

建物の中に入ると中央で木製の巨大ギアが音を立てて回っていました。『ミル(Mill)』というと私は真っ先に製粉所を連想します。ここでも製粉所として利用されていたこともあるようですが、私が気になったのは『フリング・ミル(fulling mill)』として利用されていたこと。フリングは日本語で言うと縮充(しゅくじゅう)。毛織物などを濡れた状態で叩いたりもんだりすることで布地の組織を密にする工程だそうです。そうすることで、毛が絡み合って収縮し、厚みや強度が増すらしいのです。こういう工程を水動力を用いてやっていたことを初めて知りました。

 
積み重ねられた布を木の桶に入れ、水、石鹸、場合によりっては古い人間の尿に浸す。そして水車は大きな木製(オーク)ハンマーを駆動して布を叩いて、均一な処理が行われたそうです。フリングの工程をトニー・ロビンソン(Tony Robinson)が紹介しています。水車版ではありませんが、興味のある方は(下)をどうぞ。
 
 
 
コルチェスターは16~18世紀にかけて羊毛業が盛んな町だったとして知られています。まず、ケンブリッジの大規模市場、スタゥアブリッジ・フェア(Stourbridge fair)から刈られた羊ちゃんの毛がロンドンへ運ばれてフリースになり、そこからコルチェスターへフリースが運ばれて、近郊の町や村にあるスピニング・ハウスで毛糸が作られ、再びコルチェスターへ戻された毛糸は、民家や工場で毛織物が織られ、さらにはフリング・ミル等で仕上げが行われていたそうです。出来上がった布はロンドン、あるいはスペインやポルトガルといった国へも送られました。


事実、コルチェスターとその周辺には1550~1600年の間にフランドル地方(オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域)から織物製造業者が移住しており、コルチェスターはウールから織られた「ベイズ&セイズ(Bays and Says)」と呼ばれる布の製造で有名だったそうです。その製造は1570年に迫害を逃れてきた11人のオランダ人家族によって持ち込まれたと言われています。細かいことは分かりませんけど、「ベイズ」とは今でいう「ラシャ(baize)」、「セイズ」は「綾織・サージ(serge)」のようなものだったようです。

コルチェスターの中心部には、今でもフランドル地方から来た人々が暮らしていたエリアはダッチ・クォーター(the Dutch quarter)として知られており、そこの多くの建物はチューダー時代に遡るそうです。そこで織られた布がボーン・ミルに送られフリング加工されていた訳ですね。残念ながらコルチェスターの羊毛貿易は、18世紀中頃に衰退し始めてしまったそうです。池を眺めていたら白鳥が飛び立っていくのが見えました。

 
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