海に沈んだ伝説の王国;ティノ・へリグ
数年前、ウェールズのランディドノゥ(Llandudno)へ旅行に行きました。ランディドノゥには神秘的で不思議な岩層の岬があり『グレート・オーム(Great Orme)』と呼ばれています。『オーム』とは、もともとヴァイキングが海から昇る蛇と見間違えたことから、スカンジナビア語で海の蛇を意味する「ウルム」という言葉に由来すると考えられています。そんなグレート・オームの近くに、海に沈んだとされる『ティノ・ヘリグ(Tyno Helig)』という王国があったという伝説が残されています。伝説には様々なバージョンがあるようですが、ある伝説によれば6世紀頃、ティノ・へリグの君主ヘリグ・アプ・グラナウグ(Helig ap Glannawg)が、その地域を広い範囲で統治しており、そこにリズ・ヘリグ(Llys Helig; ヘリグの宮殿)という壮大な宮殿を持っていたとされています。
さて、ティノ・へリグは本当に実在したのでしょうか?干潮時にはリズ・ヘリグの遺跡がまだ水面下に見られるとも噂されています。また、グレート・オーム西側の斜面にはリズヘリグ(LlysHelig)として知られている高級住宅地もあります。考古学的発見によれば、どうやら海底にはかつて木が立っていたことを示唆するものが存在していたようです。また、近年ではリバプール地質学会への論文で、海底に海藻で覆われた壁の残骸の発見が報告されているそうです。これらの壁は、建物が長さ約100ヤードあったことを示しており、宮殿であると結論付けているそうです。まだまだ未知な存在ですが、現在に至るまでイギリスの海岸線が変形してきていること等を考えると、もしかしたら実在していたのかもしれません。
i-ADNES ランディドノゥ関連記事;
Great Orme |
The View from the Great Orme |
St. Tudno's Church, Great Orme |
伝説では、ティノ・へリグの君主には、外見は色白で美しいけれども、内面は非常に冷淡なグウェンディド(Gwendud)という名の娘がいました。そんな彼女に恋をしたスノードン(Snowdon)領主の一人息子であるタザール(Tathal)は、彼女と結婚したいと思っていました。彼はグウェンディドとは逆に謙虚な性格で、やがて彼女もタザールの魅力に引き付けられていきました。ところが、彼は黄金のトルク(首輪)を身に着けていなかったので、グウェンディドは結婚できないと彼に伝えました。このトルク(torque/ torc/ torq)とは、貴族や高い社会的地位の証として識別する重要な装飾品だったようです。
トルク(出土;Norfolk, England) By Johnbod - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15931672 |
そこでタザールは、何としてでも黄金のトルクを手に入れようと決意するのです。そして、ある身柄を拘束された若いスコットランド人の首長を無事国へ帰すと案内役を申し出た後、彼は裏切って首長を刺し、金色のトルクを盗みました。その事についてタザールは反逆的な貴族が率いる強盗集団に襲われ、公正な戦いをして殺されたのだと主張しました。
こうして、グウェンディドは黄金のトルクを手に入れたタザールと結婚することに同意し、ヘリグの王は、この2人の結婚を祝福する大宴会の開催を命じました。準備の段階で、殺害されたスコットランド人の首長の亡霊が現れ、家族4世代に渡り呪うと告げました。呪いにもかかわらず、グウェンディドとタザールは結婚し、長生きしたと言われていますが、ひ孫の誕生によりその呪いが襲い掛かります。王宮で誕生を祝う祝賀の夜に、メイドがワインを取りに地下室へ降りていくと、海水が溢れ、魚が泳いでいることに気が付きました。嫌な予感を感じたメイドは皆に伝えるも聞き入れてもらえず、祝賀で演奏していた恋人と共に山の高台の方へと逃げました。息を切らしてなんとか安全な場所までたどり着き、朝を待ちました。太陽が昇ると、かつてヘリグの宮殿が建っていた土地は海に沈み、ただそこには波が漂っていたという物語です。
ウェールズに詳しい方のYouTube(下)では、伝説と共に、近くの教会に残された石碑の文章からこの辺かな?との予測を立てており、なかなか面白かった。
i-ADNES ランディドノゥ関連記事;
コメント