マーケットの歴史-1.レドンホール・マーケット

イギリスには全国各地に大小さまざまなマーケットが存在します。中でもシティ(ロンドンの金融街)にほど近い場所にある『レドンホール・マーケット(Leadenhall Market)』は、ロンドンで最も古いマーケットの一つと言われ、その歴史は14世紀にさかのぼると言われています。映画『ハリー・ポッターと賢者の石』などの撮影に使われていることでも知られていますね。今回はマーケットの『昔』に焦点を当てて調べてみたいと思います。


ここはローマ帝国時代、ロンディニウム(ロンドン)の中心であり、マーケットと市民行政の中心として機能していた場所でした。レドンホール・マーケットはもともとマナーハウスで、その名前は鉛屋根(lead-roofed)に由来しているとも言われています。マナーハウスがいつ頃建てられたのかは分かっていませんが、1309年までにヒュー・ネビル卿(Sir Hugh Neville)という人物が所有するようにりました。彼は、マナーハウスの敷地をテナントに開放し、それをマーケットとして使用できるようにしました。最初はかなり小さなマーケットだったようですが、家禽やチーズ屋に人気の場所だったそうです。

後に、マナーハウスの所有は市長(Lord Mayor Richard Whittington)へと移り、1411年に市へ寄贈しました。1440年、当時の市長(Lord Mayor Simon Eyre)がマナーホールを改装し、こうして最初のレドンホール・マーケットは、ジョン・クロクストン(John Croxton)の設計で1449年に完成しました。元のホールを2階建ての大きな長方形の四角形に拡張し、公共の穀倉、大規模な保管室、グラマースクール、小さなサイドチャペルを完備。かつては建物を囲む狭い通りに設置されていたマーケットも、全てアーケード内で行われるようになりました。調べていて面白いなと思ったのは、マーケットでありながら、建物にはお城などにみられるような胸壁(battlements)と砲塔(turrets)があったということです。これは、おそらく食糧不足やその他の社会不安が発生した場合の予防策として強化されたものだろうと言われています。最悪な事態も考慮して建てられていたというのは興味深いですね。また、学校や礼拝堂があったというのも驚きです。当時はマーケットとして商品を売買するだけでなく、重要なコミュニティ・スペースとして捉えられていたということなんですね。

1600年までに、マーケットには家禽、穀物、肉、卵、バター、チーズ、食料品、羊毛、皮革、カトラリーなどが並んでいたそうです。中世のロンドンにおいても、おそらく賑やかで、活気にあふれた重要なマーケットだったことが想像できます。同時に、肉屋があらゆる種類の肉を切って販売していたことから、汚くて臭い場所でもあったようです。1666年のロンドン大火では、被害は最小で済んだと言います。そんなロンドン大火やペストについて記述したことでも知られるサミュエル・ピープス(Samuel Pepys; 1633-1703)の日記には、1663年8月29日(金)6ペンスで牛のもも肉を購入したことが記されています。彼もレドンホール・マーケットで買い物をしていたんですね。
Saturday 29 August 1663 - ”…Thence to my wife, and calling at both the Exchanges, buying stockings for her and myself, and also at Leadenhall, where she and I, it being candlelight, bought meat for to-morrow, having never a mayde to do it, and I myself bought, while my wife was gone to another shop, a leg of beef, a good one, for six pense, and my wife says is worth my money. So walked home with a woman carrying our things. …”     ‐The Diary of Samuel Pepys
1881年、ごった返して手に負えないマーケットと金融街は相容れないということで、市はこの最初の建物を取り壊し、イギリスの建築家、ホレス・ジョーンズ卿(Sir Horace Jones; 1819-1887)に、現在のレドンホール・マーケットの設計と建設を依頼しました。彼は、ビリングスゲート魚市場(Billingsgate Market)やスミスフィールド・マーケット(Smithfield Market)も設計した建築家で、華やかなガラス屋根のレドンホール・マーケットはイタリアの都市ミラノにあるアーケード、ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア(Galleria Vittorio Emanuele II)の影響を受けているようです。そして、レドンホール・マーケット1972年にイギリス指定建造物の2級(Grade II listed)に指定されています。

Source; Wikipedia
The interior from the 
Illustrated London News, 1881

Source; Wikipedia
Main entrance from the 
Illustrated London News, 1881

今年(2021年)で700周年を迎えたというレドンホール・マーケット、店の正面をよく見ると、農産物がぶら下がっていた元の錬鉄製のフックがあったりするそうです。じっくりと見に行ったことはないのですが、機会があればいつかまた覗いてみようと思います。

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