トム・ティット・トット

『トム・ティット・トット(Tom Tit Tot)』とは、イギリスの有名なおとぎ話の一つで、グリム童話の『ルンペルシュティルツヒェン(Rumplestiltskin)』というお話に類似しているそうです。私はどちらも知らなかったのですが、ウィキちゃん(Wikipedia)によれば、日本語では『がたがたの竹馬こぞう』と訳されることもあると書いてありました。ドイツ語を訳すとそういう意味のようですけど、それはそれでまったく別の物語に聞こえますね。。。ということで、今回はイギリスの『トム・ティット・トット(サフォーク)』を取り上げてみることにしました。ざっくり、どんなお話かというと。。。

女性がパイを5枚焼き、冷ましている間に買い物へ行くと、その娘が一枚残らず平らげてしまいました。買い物から帰ってきた母親は怒り、外に出て大声で「うちの娘がパイを5枚食べた!!」と叫びまくりました。偶然そこを通りかかった王様に、今何と言っていたのかと聞かれた母親はきまりが悪く、「うちの娘は亜麻糸を5かせ紡いだ」と言ったのだと噓をつきました。王様はそりゃー凄いと驚き、「自分は妻が欲しいのでその娘と結婚する」と言いました。「11か月は自由に贅沢な暮らしをさせよう。ただし、12か月目には毎日亜麻糸を5かせを紡がなければならない。それができなければ処刑だ」と言いました。

母親は娘の心配よりも、素敵な服を着てクイーンの母親になることで頭がいっぱいでした。亜麻糸5かせについては、王様は忘れてしまうかもしれないし、まぁなんとかなるだろうと安易に考えていたのです。

こうして娘は王様と結婚し、11か月は美味しいものを食べ、欲しいものを手に入れ、好きな服を着て自由に過ごしました。12か月目になると、王様は突然冷淡に、塔にある部屋へと娘を連れて行き、約束通り亜麻糸を毎日5かせ紡ぐように言いました。そこは椅子と糸車があるだけの殺風景な部屋でした。娘は糸紡ぎをあまり知らなかったので、恐怖におののき、椅子に座って泣き出しました。すると音がして、娘が顔を上げると、そこには長いしっぽのある小さな黒いインプ(Imp)が興味深そうに彼女を見上げていたのです。「どうしたの」とインプが言うので、娘は事情を全て話しました。インプは僕の名前を当ててくれたら、代わりに毎日5かせ紡いであげると言いました。「月の終わりまでに当てられなければ、君は僕の物だよ」。

インプは約束通り毎日亜麻糸を5かせ用意してくれました。娘は色々な名前をあげましたが、一向に当たりません。そして最終日前日、王様は上機嫌で娘と一緒に夕食をとりました。娘がどうしたのかと聞いてみると「今日、狩りに出かけたら森の中に今まで見たことのない場所があって、覗いてみると小さな黒いものが糸を紡ぎながら『ニミー、ニミーではない。僕の名前はトム・ティット・トット』と歌っていた」と言うのです。それを聞いた娘は何も言わず、嬉しさを噛みしめました。

翌朝、亜麻糸を5かせを持ってインプが現れたので、娘は恐れているふりをしながら、わざと違う名前を並べた後、『ニミー、ニミーではない。あなたの名前はトム・ティット・トット』と答えました。するとインプは非常に鋭い叫び声を上げ、空気中に姿を消しました。それ以降、娘はインプを見かけることはなかったそうです。

Source; Wikipedia
imp

『トム・ティット・トット』というタイトルは面白いですね。意味は定かではありませんが諸説考えられるようです。中には「tot」はスコットランド語由来で、小さな子供を意味し、「tit」は「tot」同様の意味があることから『Tom Little Little』と言う意味なのではないかと解説されている方がいらっしゃいました。確かにインプは小さい生き物。ウィキちゃんによると、インプ(imp)とは悪魔の一種とあります。容姿は小さく、全身黒い色をし、充血した目と尖った耳に、ぽっこりお腹、かぎのある長い尻尾を持っているそうで、ヨーロッパの民間伝承や迷信などに登場するいたずらっ子です。「imp」は挿し木など枝を意味し、種から育ったわけでもなく果実を実らせることから、魔術的な意味があるといわれていたようです。それから、「かせ(綛)」というのは、取り扱いに便利なように、一定の大きさの枠に糸を一定量巻いて束にしたものです。英語では「スケイン(skein of~)」という単語が使われていました。意味することは想像は出来ますが、なかなか日常では使わない単語ですよね。

さて、最初に『(サフォーク)』と書きましたが、イギリスの「トム・ティット・トット」は、1878年1月15日にアンナ・ウォルター トーマス(Mrs Anna Walter-Thomas)という夫人により、サフォークのイプスウィッチ・ジャーナル(the Ipswich Journal)に寄稿されたものだそうです。もともとは、看護師が彼女に話した記憶からサフォークの方言で書かれ、それ以来、方言を減らして何度も再版されているのだとか。例えば、イースト・アングリア地方の方言として『mawther(モウザー)』という単語があるそうです。聞いたことありませんでしたが、これは「若い女性、娘」などを意味があるそうで、「メイド(Maid)」の単語と同じ語源のようです。また、「私の娘」という個所では『My darter (=My Daughter)』という方言が使われていました。日本人にとってイギリスの方言は難しいけど、ちょっと垣間見てみるのも面白いかもしれません。

読み終えて、このお話にはまともな登場人物がいないと思ってしまった私。。。酷い母親に馬鹿な娘、冷酷な王に間抜けなインプ。。。しかも「めでたしめでたし」でもないよね?娘の命は助かったかもしれないけど、殺すと脅して奴隷のように労働させた王と一緒に暮らすのだから、どう考えたってそこに愛はないでしょ。まぁ、深く考えず、さらっと読むのがいいのかも。。。この「悪魔(鬼)の名前を当てる」というようなお話は、世界に色々存在するようです。これには、名前を知ることで相手を意のままに操れるとか、支配できるという概念が込められているのだとか。

(追記);後日、日本昔話を見ていて、岩手県の昔話 『大工と鬼六(だいくとおにろく)』 という話にも、「鬼の名前を当てる」というくだりがあって似ているなぁと思いました。調べてみると、やはり類似性を指摘されている方々がいらっしゃいました。異なる国に似たようなお話があるというのは興味深いですね。

(追記2);イギリス・ノリッジに伝わる『グリーンマン』というお話も類似していることが分かりました。

参照;

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