マッド・ジャック・フラーのピラミッド

『ピラミッド(Pyramid‎)』とは、エジプトや中南米などに見られる四角錐状の巨石建造物。やはり真っ先に、エジプトの有名な「ギザの三大ピラミッド」を連想します。古代エジプトのファラオの墓陵とされていますよね。そもそも『ピラミッド』とは、ギリシア語で三角形のパンを指す「ピューラミス(πυραμίς; pyramis; ピラミス、ピラムスとも)」に由来するという説が最も有力とされているそうです。

Source; Wikipedia
The Pyramid of Kephren ” Khafre” at Giza

さらに、現代のピラミッドと言えば、1989年に完成したルーヴル美術館のメイン・エントランスであるガラス製『ルーヴル・ピラミッド』が有名です。このように、ピラミッドを模した建造物は世界中に多く存在しているんですね。


では、私が住むイギリスはどうかというと、ありましたよ。ありました。イースト・サセックスのブライトリング(Brightling, East Sussex)という小さな村の教会(St. Thomas à Becket)の墓地に、高さ25ft(約7.62m)の石造ピラミッドがあるそうです。ここには誰が埋葬されているのかというと、ジョン・フラー(John Fuller; 1757‐1834)という人物。彼は政治家であり、建設者、慈善家、芸術と科学のパトロン、奴隷所有者であり奴隷制支持者とありました。うぅ、なんだかきな臭い。。。彼は頑固な保守派で、ずけずけ物を言う感じと、怒りっぽさ、大きな怒鳴り声から『マッド・ジャック(Mad Jack)』というニックネームが付いていたそうです。

Source; Wikipedia
Jack Fuller

彼がどんな人物だったかというと、牧師の父と母の間にノース・ストーンハム(South Stoneham, Hampshire)で生まれ、姉が2人(Elizabeth and Frances)いたようです。4歳で父親を亡くし、10歳から有名な公立学校イートンカレッジで教育を受けています。20歳の誕生日にはフラー一族の財産と不動産を相続しました。政治家だったとありましたから、やはり立派な教育を受けていたんですね。ただし、キャラクターとしてはなかなかの人物だったようです。彼は酔っ払いでも有名で、酒の勢いで激しく怒鳴りたてた末、守衛官によって国会から追放(1810年)されたこともあるのだとか。また、相続によりジャマイカの奴隷農園を所有し、奴隷制の強力な支持者だったともあります。彼自身33歳で、女性にプロポーズするも拒絶されたようで、未婚であり、子供がいたことも知られていないとあります。一方で、ロンドンの王立研究所の支持者・後援者であり、天文台や救命艇、灯台の建設などにも多額の寄付を行っているそうです。

Source; Wikipedia
"Mad Jack" Fuller's tomb in Brightling Churchyard

さて、彼は自身が死ぬ23年前の1811年に、自分のためにこのピラミッドの墓(写真上)を建設しました。実際、彼はロンドンの自宅で77歳で亡くなり、教会墓地のピラミッドの下に埋葬されました。面白いのが、「マッド・ジャック」は完全なイブニングドレスを着てトップ・ハットをかぶり、ローストチキンとワインボトルの置かれたテーブル席に着いたままの状態で埋葬されたとの伝説があったのです。なんとも彼らしい伝説です。残念ながら、1938年に腐った木製ドアが修理のために取り外された際、「マッド・ジャック」は墓の床の下に通常に埋葬されていたことが明らかとなりました。

『エジプトマニア(Egyptomania)』という言葉があるように、ナポレオンのエジプト遠征をきっかけに、19世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパやアメリカでは古代エジプトへの関心が非常に高まった時代がありました。1799年に発見された古代エジプトの遺物ロゼッタストーン(Rosetta Stone)がフランスのエジプト学者シャンポリオン(Jean-François Champollion; 1790‐1832)やイギリスの物理学者トーマス・ヤング(Thomas Young; 1773-1829)によって解読されたのが1822年。ハワード・カーターによりツタンカーメン王の墓より発見・発掘されたのも1922年です。このように、考古学者たちがエジプトで数々の遺跡を発掘し、その後のアートや文化に大きな影響を与えています。

ですから一見、イギリスの教会墓地にピラミッド?と不思議な感じもするのですが、そういう流れを理解すると、人気のあったピラミッドの霊廟やらオベリスクが出現したのも当然の結果といえます。おそらく、イギリスでは「マッド・ジャック」のピラミッドが一番有名なのかなと思うのですが、ピラミッドの墓はこれだけに限りません。イギリスではピラミッドの他にも、エジプトから影響を受けた先のとがった霊廟は他にもたくさん存在しているんですね。

今でもエジプトの歴史や神秘的な謎は人気があります。私もそれほど詳しくはありませんが、エジプトの考古学も好きですし、仙台にいた時もエジプトに関する催しが来ると必ず見に行ってました。そういや学生の頃、友達に借りて『王家の紋章』の漫画も読んだな。。。もう内容忘れちゃったけど懐かしい。尻切れトンボのまま終わったけど、その後どうなったのかな?

参照;

  • https://en.wikipedia.org/wiki/Mad_Jack_Fuller
  • http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/7008173.stm
  • https://www.davidcastleton.net/english-pyramid-tombs-mad-jack-fuller/

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