ダブル・レインボー

先日、ダブル・レインボーを見ました。イギリスでダブル・レインボーを見たのはこれが二度目。虹を見ると、なんだか嬉しくなるのはなぜだろう。今まで見た虹の中にはもちろん印象的だった虹もいくつかあります。でも今はただ、コロナに悩まされず自由だったその頃が懐かしい。


さて、一般的に赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色と言われる虹。色のスペクトル(色の帯)の順が決まっているので、並びは必ず同じだそうです。イギリスには薔薇戦争に関連した『Richard Of York Gave Battle In Vain.』という言葉があります。日本語だと「ヨーク公リチャードは戦うも無駄に終わった(負けた)」という意味になりますけど、訳してしまうと実は意味がないんです。なぜならこれは虹の色の順序を憶えるニモニック、つまり語呂合わせの記憶術なのです。それぞれの単語の頭文字を取ると『R, O, Y, G, B, I, V』ですね。この7つの頭文字がそれぞれ虹の7色「R(ed)、O(range)、Y(ellow)、G(reen)、B(lue)、I(ndigo)、V(iolet)」の頭文字を示しているという訳なのです。なるほど。

虹はその神秘的な美しさから、多くの神話にもよく取り上げられてきた自然現象です。きっと昔の人も虹を見たら幸福な気分になったはず。ジョン・リドゲート(John Lydgate; c.1370-c.1451, Suffolk England)という中世の詩人・修道士が残したマニュスクリプト(Lives of Sts Edmund and Fremund)には、聖人フレモンド(でいいのかな?)の誕生時に起きた奇跡の虹(72v, Miracle of rainbow at Fremund's birth)が描かれています。これは色彩がとても鮮やかですね。

Source; British Library
A rainbow appears at the birth of St Fremund, 
from John Lydgate’s Lives of Sts Edmund and Fremund, 
1434-1439: Harley MS 2278, f. 72v

このようなマニュスクリプトに用いられた色は、植物、鉱物、動物など様々な材料から作られました。例えば、暗い文字のインクは一般的にオークの胆汁から作られたもの。赤とオレンジの顔料は、加熱すると鮮やかなオレンジ色の赤を生成する鉛丹(えんたん)として知られている天然鉱物から。一般的な黄色は、オルピメント(石黄せきおう)として知られているヒ素を含む非常に有毒な物質から作られました。黄色は他に、ペルシャやヨーロッパの一部から輸入された高級スパイス・サフランを含む植物、鉱物源からも作られたそうです。また、植物の葉鞘(ようしょう)はサフランに代わる安価な代替え品として、国内のベリー・セント・エドマンズ(Bury St Edmunds)、オックスフォード(Oxford)、ディーンの森(Forest of Dean)でも調達できたようです。ウルトラマリンブルーは、最も貴重な顔料で、天然鉱物ラピスラズリから作られ、アフガニスタンからヨーロッパへ輸入され、金と同じくらい高価でした。中世後期の芸術家は、高い地位を表すために聖母マリア、聖人や裕福な人々のローブにウルトラマリンブルーを使用したそうです。また、シトリマリン(citrimarine)として知られるより手頃な青い顔料は、アズライトと呼ばれる銅化合物から作られたもの。バイオレット/紫色は、赤と青の顔料を混合して作られたり、植物や苔などの地衣類から作られました。ティリアンパープル(Tyrian purple)として知られる澄んだ赤みのある紫色の染料は、巻貝からわずかに抽出される分泌液を用いたことから地中海東部では非常に貴重とされ、特に、ローマ皇帝のローブのための染料として使用されたのだとか。また、ディープブルー/インディゴは植物系顔料で、以前にも書いた植物ウォードの葉から用いられたようです。インディゴは金箔を補うために使用されたり、夜のシーンで使用されているらしい。

通常、これらの顔料は粉末状に作られ、卵白で作られたつや出し材、卵黄で作られた卵テンペラ、あるいはゲッソ(膠を混ぜ合わせた画布の下塗り用の石こう)などと混ぜて使用されていたそうです。そう言えば、映画『真珠の耳飾りの少女』でも顔料を用意しているシーンがありましたね。

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