パブの名前。

「ある村の昔ながらのパブがビールのコマーシャルに選ばれた時、パブとはこういうものと広告マンが思い描くパブへお金を掛けて改築が行われた」という皮肉な文章を読んだことがある。とすれば歴史あるパブの中には実際よりも理想的で人工的なパブがあったりするのかもしれない。


イギリスでは町のあちこちにパブが存在します。わが家から徒歩5分圏内だけでも3件あったりする。もともとイギリスには「イン(Inn)」、「エールハウス(Alehouse)」、「タヴァン(tavern)」が存在していました。それぞれ語源は異なるようですけど。のちに、これらをまとめて社交の場という意味で『パブリック・ハウス(public house)』と呼ばれるようになるんですね。多くは交易路に沿ったマーケットタウンに位置し、飲食だけでなく宿泊施設を兼ね備え、旅人や商人の疲れを癒しました。文献で最初に『パブ(Pub)』という言葉が使われたのは1868年。つまりパブとは現代人がゲーム・センターをゲーセンと呼ぶようにパブリック・ハウスの略語だったんですね。

Source; Wikipedia
The Tabard Inn, Southwark, London, around 1850

パブには色々な名前がありますよね。それは動物、王、地主・貴族、歴史的出来事、ギルド等々。様々な起源をもっています。中世時代に人気があったのは『ホワイト・ライオン(White Lion)』や『ブルー・ライオン(Blue Lion)』、『ドラゴン(Dragon)』など、紋章からついた名前だそうです。ほとんどの人が領主などに忠誠を誓っていたため、忠誠心や愛国心を示すために採用されたようです。『ホワイト・ハート(White Hart)』はリチャード二世(Richard II; 1367-1400)、『スワン(Swan)』はヘンリー5世(Henry V;1387-1422)、『レッド・ライオン(Red Lion)』はジョン・オブ・ゴーント(John of Gaunt; 1340-1399)のバッジ・紋章等のシンボルに由来するそうです。どれどれ、見てみよう。確かに確認できますね。因みに「ハート(Hart)」は雄ジカ です。
Source; Wikipedia
Coat of arms of King Richard II
Source; Wikipedia
John of Gaunt’s Heraldic Symbol

こちらはブレイントゥリー(Braintree, Essex)にあるホワイト・ハートのパブ。今は改装されてますが、もともとは14世紀のインだったところです。


また、王や女王の名前のパブもよく見掛けます。『クイーンズ・ヘッド(The Queen’s Head)』や『キングズ・ヘッド(The King’s Head)』なんかもありますが、これ、遊び心があって面白いと思う。誰のことだろうと思わせておいて、看板のポートレートを見ると、どの王・女王を指すのかわかることも。エリザベス1世(Elizabeth I; 1533-1603)は人気があったそうですが、気高い彼女はそこらの画家に自分を描かれるのを嫌い、1563年の宣言(royal proclamation)によって、看板を取り壊して燃やさせ、それ以降の彼女の看板を禁止させたのだとか。王としてはチャールズ2世(Charles II)が人気あったようで、『キング・チャールズ(King Charles)』や彼にまつわる逸話から『ロイヤル・オーク(The Royal Oak)』というのも彼に関連するものらしい。『ロイヤル・ジョージ(Royal George)』や『ジョージ(The George)』とつけば、ジョージ1世やジョージ4世は人気がなかったので、きっとジョージ2世や3世のことだろう。と、ちょっと雑学を知ると面白かったりする。

チャールズ2世は1393年に、旅宿に看板を掲げることを定めています。それまで看板がなかったわけではないですが、より明確にしたんでしょうね。字が読めない人が多かった時代、絵で判断した訳です。いろいろな看板があって当時も人々の目を楽しませたんじゃないだろうか。。。パブの名前、他にどんなものがあるのか興味がある方は、ウィキちゃんの英語版にかなり沢山の情報が載っています。そんな訳で、パブも名前の由来を知ると、行った先々で見る目が少し変わってくるかも。


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