誰だって歳をとる。

気高いエリザベス1世(Elizabeth I; 1533-1603)は自身の肖像画について、しわなど欠点がないか慎重に吟味したと言われています。なんだかそれは現代のセレブたちが美容整形を行うのに通じるところがあるように思う。人一倍高い美意識の表れ。彼女の肖像画を見る限り、高貴さとエレガントなイメージが伝わってくる。けれど、それは女性としての美しくさだけではなく、イングランド女王として、外交する立場として権力・威厳を誇示するために理想化されて作られたイメージでもあるという訳ですね。

女優ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)が演じた映画『エリザベス(Elizabeth/ 1998)』で、彼女がおばけ並みに真っ白く顔を塗りたくって現れる最後のシーンが印象的でした。当時の美の理想というのは、ブロンドの髪に蒼白な顔、そして明るい目と赤い唇だったそうです。白い肌というのは太陽の下で働く必要がないという意味で、富と崇高さを象徴するものだった訳ですね。当時の白いおしろいというのは、基本、白い鉛(white lead)と酢(vinegar)で作られていたのだとか。明らかにお肌には悪そうだよね。実際、時間の経過とともに鉛が肌に浸透して灰色になり、しわにもなったらしい。。。肌をスムーズにし、艶を出すために卵白も使用。そして頬や唇には朱色を差した。朱色は硫化水銀(mercuric sulphide)で、唇をなめることで毒性物質を摂取し、体に様々な影響を起こした可能性もあるそうだ。。。

晩年のエリザベス1世の容姿は実際どうだったのか?白い肌に赤い髪という彼女自身の特徴を誇張しつつ、醜い部分を隠すのに必死だったようです。公衆の前に立つ前は準備に時間を費やしたのだとか。禿た頭をカバーするために赤味を帯びたかつらを被り、顔に残った天然痘の跡はしわと一緒に白いおしろいでカバーし、頬や唇には鮮やかな色を使用した。砂糖を使った甘いお菓子が大好物だった彼女の歯は虫歯で真っ黒で、歯も抜け落ちていたと言われています。

下はマーカス・ギーラアーツ(Marcus Gheeraerts the Younger; c.1561/62-1636)という画家が描いたとされるエリザベス1世の肖像画。62歳頃の姿らしい。肌の色もくすみ、しわも描かれた老け顔の珍しい作品だけど、私はとくに違和感を感じなかった。下手に美化された肖像画よりリアルな感じがする。。。

Source; Wikipedia
Portrait of Elizabeth I
attributed to Marcus Gheeraerts the Younger or his studio,
ca. 1595.
美女と言われた小野小町(生没年不詳)も『花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に』とうたっている。女性ならば、いつまでたっても若々しく綺麗でいたいと思うのは皆同じ。でも人工的な美しさは当人の自己満足であって、老いを受け入れ、人生を楽しみ、年相応に自分らしくいることが自然の美を保つ鍵なのかもしれない。誰だって歳をとる。頭では分かってはいるけど、この年になるとそれが時に恐ろしく思えるんだよねぇ。。。

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