内陸の湖に棲むマーメイド

以前、イングランドのゼノア村に伝わるマーメイド伝説について書きましたが、イギリスに伝わるマーメイドを調べていて面白いと思ったのは、海岸ではなく内陸の湖にもマーメイド伝説が存在していることです。珍しいですよね。そんな訳で、今回は内陸の湖に棲むマーメイド伝説を3つ選んでみました。プール(Pool)とはいわゆる「水溜まり」のことで、ここでは自然に形成された小さな湖を指します。写真(下)を見れば何となくイメージが沸くと思います。

  • マーメイズ プール、ダービーシャー(Mermaid's Pool, Derbyshire);噂によると、湖の底が大西洋と地下通路で繋がっているため、内陸の湖でありながら塩水という珍しい湖だと言います。位置的にだいぶ内陸なので個人的には「大西洋と地下通路で繋がっている?塩水?ほんまかいな?」と疑っていますが真相は分かりません。ただ、ここの水で古代ケルトの水崇拝の儀式が行われていたと言われています。それは水が塩水であること、近くにあるキンダー・ダウンフォール(Kinder Downfall)の滝は、悪天候の日に風で水が吹き上げられ、上向きに流れるように神話的に見えることがよく起こるためと言われています。ここのマーメイド伝説の起源は不明ですが、他の(内陸の)湖でも同様の伝説が存在していおり、また、古代から利用されていたため、伝説は古くから存在していた可能性があるようです。マーメイズ プールで水浴びをする勇気のある者には、癒しを与えるとも言われていますが、伝説ではイースターの日曜日の日の出に、水を見ると美しい人魚が棲んでいるのが見え、うっとりと見つめ返されたら、永遠の命を授けてくれるものの、タイミングを間違えると引きずり込まれて死んでしまうので要注意と言われています。この地域は厳しい自然環境にある場所のようなので、天候によっては短時間で視界が悪くなったり、雰囲気的にもこのような不思議な伝説が根付いたのかなとも思います。
Source; Wikipedia
Mermaid's Pool
By Dave Dunford, CC BY-SA 2.0,
  • ブラック・ミア・プール、スタッフォードシャー(Black Mere Pool, Staffordshire);荒涼の地にある湖でかつては底なしと呼ばれていましたが、U字トンネルで近くの湖と繋がっているとも言われています。ここには2つの伝説が存在し、一つは地元の船乗りが航海中に出会ったマーメイドに恋をして、一緒に暮らせるようにマーメイドを運んで来てこの湖に放ったというもの。ところがのちに男性が亡くなり、マーメイドは一人そこに取り残されてしまいました。彼女は悲しみ、自由を望みましたが、内陸にあるため戻ることが出来ませんでした。やがて悲しみは怒りへと変わり、湖に出没しては人間を死に追いやるようになったと言われています。もう一つは、若くて美しい女性に振られた男性が腹いせに、彼女を魔女と非難して、湖で溺死させました。不当な扱いを受けた女性は彼を恨み、女性の魂がマーメイドに姿を変えて湖に出没していると言われています。処刑から3日後、振られた男性は湖の横で遺体となって発見され、顔は血まみれ、鋭い爪で裂かれていたと言います。伝説ではマーメイドが出没するため、動物や鳥は水辺に近づかないとも言われています。嘘か誠か、昔ここで何かしらの出来事があったのかなぁと想像を掻き立てられる物語です。いずれもマーメイド(女性)の怨念のようなものが感じられますね。
  • チャイルズ アーコール・プールシュロップシャー(Child’s Ercall Pool, Shropshire);伝説によると、ある朝、地元の男性2人が仕事に出かける際にチャイルズアーコールの湖を通り過ぎると、水中に人魚がいるのが見えました。彼らは(死へ)連れていかれるかもしれないと思いとても怯えましたが、マーメイドは彼らに話しかけ、男性たちを誘惑します。「この湖の底に隠された財宝があります。もし水中に来て、私の手から受け取るならば、その宝はあなた方のものになるでしょう」。マーメイドは人間の頭ほどある金の塊を持ってきたので、男たちはそれを手に入れるため湖に飛び込みました、そして男性の一人が金の塊に近づいた時「If this isn't a bit of luck」と言いました。「If」はここでは驚きを表すもので、これはラッキー、ツイてる、幸運だなどの意味で、男たちが金の塊を受け取ろうとするとマーメイドは悲鳴をあげ、恐怖で宝を持ったまま湖に潜り込んでしまいました。詳細は語られていないので分かりませんが、言葉を発したことがいけなかったのか、自分の挑発に対して逆に恐怖を覚えるような彼らの欲深さ、卑しさがにじみ出ていたのか、あるいは「Luck」と言う言葉自体が何かマーメイドの嫌う呪文のような神聖な言葉だったのか、彼女は二度と姿を現すことはなかったそうです。
マーメイドのように超自然的なものは、よく伝説の中で通りがかりの人々を誘惑したりして食い物にし、殺す生き物として描かれています。北欧神話でも、海の魔女はほとんどの場合、マーメイドやセルキーの姿をした邪悪な精霊として描かれており、今回取り上げたマーメイド伝説も、魅力的な姿、神秘的な存在である一方でやはり邪悪な面が描かれた内容になっているなと感じました。湖であれば、ある意味どんな生物でもよかったはずなのに、なぜマーメイドだったのか、ちょっと不思議に思える興味深いお話でした。

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