シェイクスピアから生まれた言葉。

イングランドの劇作家、詩人として有名なウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare; 1564‐1616)は、『マクベス(Macbeth)』、『リア王(King Lear)』、『オセロ(Othello)』、『ハムレット(Hamlet)』などの4大悲劇をはじめ、『ヴェニスの商人(The Merchant of Venice)』や『ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet)』など、素晴らしい作品を多く残していますが、その他にも現代の英語に大きな影響を与えたことで知られています。作中でシェイクスピアによって生み出された言葉は、1700以上あるとも言われていますが、それら全てを「発明」したと言う訳ではありません。エリザベス時代、あるいはジャコビアン時代から一般に会話で使用されてきたであろう言葉も多く含まれており、書面に書き記した最初の人物がシェイクスピアだったと言う訳なのです。実際、シェイクスピア自身が作り出した言葉は420とも言われています。それは、2つの単語をくっつけたり、動詞を形容詞、名詞を動詞に変えたり、接頭辞・接尾辞を追加するといった形で新たに作られたそうです。もちろん造語はシェイクスピアが最初と言う訳ではありませんが、職業柄、記録に残り、人の心をつかんだ舞台劇の中で広く認められていったのでしょう。

Source; Wikipedia
William Shakespeare

例えば『風邪をひく(catch a cold)』という言葉は、今でも普通に使用します。この言葉は古いケルト人ブリテン王にまつわるシェイクスピアのあまり知られていない戯曲の1つ『シンベリン(Cymbeline; 1610-11/ Act1, Scene4, 145-165)』の中で、「…略… straight away for Britain, lest the bargain should catch cold and starve.」と記されています。直訳すると「取引が冷たくなって凍死しないように、すぐにブリテン王国へ向かわなければならない」。 つまり、取引に時間がかかりすぎると失敗するという意味で、「物事が冷え切ってダメになる」を人に置き換え「人が冷えて病気になる」ということなんですかね?最終的に「風邪をひく」と意味するようになったそうです。面白いですね。

他に、『何言ってるか分かんない(It's all Greek to me )』という言葉も、『ジュリアス・シーザー(Julius Caesar; 1599/ Act1,Scene2, 278-283)』の中で述べられている言葉です。キャスカ(Casca)がキケロ(Cicero)のスピーチについて、一部の人が理解できないように意図的にギリシャ語で話していたと述べています。意訳すると「しゃべってる言葉がぜーんぶ(自分の知らない)ギリシャ語だから、チンプンカンプンでさぁ」ってな感じで、そこから直接「理解できない」という意味になりました。

私が結構好きな表現は『緊張を解きほぐす(Break the ice)』という言葉です。このフレーズは『じゃじゃ馬ならし(Taming of the Shrew; Act 1, Scene 2, 237-242)』にあり、緊張で冷え切り、シーンと張りつめた空気間の中で、何か気の利いた言葉を発して雰囲気を和ませるというような意味合いですが、その状態をまさに「氷」と「砕く」で表現するってやはり上手いなぁって思うのです。表現は新しくても、劇を見ている人々にとっては連想しやすい表現だったのかなぁと想像できます。本来は、船の通路を空けるために氷を砕くことを目的とした砕氷船(icebreaker)を指した言葉のようですが、緊張をほぐすという意味で使ったのはシェークスピアが初めてでした。

また、有名な『恋は盲目(Love is blind)』と言う言葉は、『ヴェニスの商人(The Merchant of Venice; c.1405 /Act 2, scene 6, 35)』の中に登場するフレーズです。誰かと恋に落ちると常識や理性を見失う、周囲が見えなくなると言う言葉ですよね。恋に落ちることは決して悪いことではないし、誰しもアルアルな状態ですが、ある程度の冷静さを兼ね備えることも大事よね。本文ではユダヤ教徒の娘ジェシカ(Jessica)がキリスト教徒のロレンゾ(Lorenzo)と恋に落ち、駆け落ちを決意します。2人の会話の中で『But love is blind, and lovers cannot see the pretty folies that themselves commit;...(恋は盲目、恋人たちには自分たちの愚かさがわからないものなのねぇ~』とジェシカが言います。このフレーズは以前から存在していたものであり、シェークスピア自身が生み出した言葉ではありません。でも、シェークスピアがこの作品の中で広めたと言われています。この言葉の正確な起源は不明なものの、実は1405年に出版されたジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer; c1343-1400)の『カンタベリー物語(The Canterbury Tales)』にある「貿易商人の話(The Merchant’s Tale)」の中で「For loue is blynd alday and may nat see」と既に明確に言及されているんですね。また、それ以前のもっと早い時代から存在していたと言う説もあります。

このように、一つひとつ見ていくと、はやりシェイクスピアの語彙力と豊かな表現力に驚かされます。今回、ブログで取り上げた言葉は、一般によく紹介されている言葉ですが、この他にもたくさんあるので、個人的には本文を見ながらこれからも掘り下げてシェイクスピアの言葉に触れていきたいなと思っています。

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