シェイクスピア語録-Fashionable

日本語でも使う『ファッショナブル(Fashionable)』という言葉。これは「Fashion」と「able」を組み合わせた造語で「ファッション+可能にする」、つまり流行に敏感で最先端の流行を取り入れているさまを意味する単語です。「Fashion」は、古フランス語の『façon、fachon、fazon(顔、外観、構造などの意味)』に由来した言葉で、1300年頃から使われていた言葉でしたが、シェイクスピアが「able」を組み合わせて『ファッショナブル』という言葉を生み出したと言われています。


1602年に描かれた悲劇『トロイラスとクレシダ(Troilus and Cressida: Act3, Scene3, 165)』の中に『For time is like a fashionable host that slightly shakes his parting guest by the hand, and with his arms outstretch’d, as he would fly, grasps in the comer: welcome ever smiles, and farewell goes out sighing.…』と書かれています。最初の部分を直訳すると「時間というものは、ファッショナブルなホストのようなもの」とあります。当然ながら、流行の服で着飾ったホストクラブの兄ちゃんの事ではありません。ここで言うホストは宿屋主人を指しており、ファッショナブルも現代の意味する「流行の服を着たお洒落な」という解釈とは大きく異なり、シェークスピアは「変わり易い、軽妙な、うわべの、上っ調子の」というようなどちらかと言うとネガティブな意味合いで使っていたようです。

この場面の会話では、かつての英雄伝説が忘れ去られていることを嘆いています。つまり、どんな栄光も成し遂げた時にはチヤホヤされ、もてはやされるけれども、時がたてば忘れ去られてしまう。そんな時間と言うものは「ファッショナブルなホスト」に似ていると言っているのです。新たに来た客にはもろ手を挙げて笑顔で迎え入れるけれど、帰る客には適当に手を振って見送っているような、変わり身の早い宿屋主人の客に対する態度と一緒だよねと比喩しているものと思われます。個人的には、作品は違いますが、レ・ミゼラブルに登場するティナルディエを想像してしまいました。要は新たに来た客は大歓迎で胡麻をすってもてなすけれど、お金を払ってもらったらもう用無し。お払い箱。帰る客より次の客。私が思い描いたのはそんなお調子者の宿屋主人のイメージでした。次から次へと変わり易い様から、物事が一時的にもてはやされ、世間に広まるというような現在の「流行している」という意味になったのかなぁと思います。

前回、『シェイクスピアから生まれた言葉』ということでいくつか挙げましたが、今後もシェイクスピアが生み出したとされる言葉について、こんな感じでちょこちょこ深堀して調べていこうと思います。ついでにシェイクスピア辞典も買っちゃった。


参照;

コメント