マーケットの歴史-3.ビリングスゲート・マーケット

かつては、勅許状(a royal charter)無しにマーケットを開設することはできませんでした。ロンドンは1327年、エドワード3世(Edward III)によりマーケット・ライツ(市場開設権;Market Rights)が付与され、市から6.6マイル(約10㎞)以内にライバルのマーケットが設立することは禁じられていたそうです。その距離は、人々が徒歩でマーケットに出向き、農産物を販売し、一日で帰れる距離だそうです。さらに1400年、ヘンリー4世(Henry IV)は、憲章により、ビリングスゲート、チープ、スミスフィールドで通行料、及び税関を徴収する権利を市民に与えました。

   BILLINGSGATE (From a View taken in 1820.) 

その中の一つ、『ビリングスゲート(Billingsgate)』は、かつて『Blynesgate、Byllynsgate』として知られていたそうで、名前の由来は分かっていませんが、商品を陸揚げした市の南側にある水門を「ビリング(Biling)」という名の男性が所有していた、あるいは紀元前400年頃まで遡る古代の王ベリンに由来する可能性もあると考えられています。ここはシェイクスピア時代のロンドンの主要なドックで、建設年は不明ですが、10-11世紀にロンドン・ブリッジが再建されたことを受け、1000年頃に建設されたと考えられています。


ビリングスゲートと言えば、今でこそイギリス最大の魚市場(1982年ドックランズに移転)で有名ですが、ビリングスゲート・マーケット(上図緑色の〇の場所)は、もともと魚の販売に特化していた訳でなく、魚の他にもトウモロコシ、石炭、鉄、ワイン、塩、陶器など、さまざまな農産物や一般的な商品を扱っていたマーケットだったそうです

1699年に議会は、魚だけを売る権利を与える法律を可決しましたが、当時人気のあったウナギだけはこのマーケットで売ることができなかったそうです。それには理由があり、1666年のロンドン大火の際、ロンドン市民に食糧を提供するのを手伝ったオランダの漁師へ、報酬としてウナギを販売する独占権を与えたからです。ちょっといい話ですね。

19世紀半ばまで、魚等はドック周辺の屋台などで販売されていましたが、取り扱い量が増えたことで手狭となり、1850年に最初のビリングスゲート・マーケット専用の建物が建設されています。それでも不十分ということで、建て直しのために1873年に取り壊されてしまいました。その後、イギリスの建築家ホレス・ジョーンズ卿(Sir Horace Jones; 1819-1887)の設計で、ジョン・モウレム(John Mowlem; 1788-1868)により、その場所に新たなビクトリア朝の建物が建設されました。1876年にオープンした建物は、マーケットが移転する1982年まで使われており、現在はグレードIIの建築物に指定され、イベント・スペースとして使用されています。魚のウェザーヴェイン(風向計)が洒落てます。



こちらも、ロンドン大火やペストについて記述したことで知られるサミュエル・ピープス(Samuel Pepys; 1633-1703)の日記に、マーケットという訳ではありませんが、ドックとしてビリングスゲートの名がたびたび登場しています。
  • Thursday 19 March 1667/68 … s burned, as far as Billingsgate; and there do see a brave street likely …
  • Saturday 16 December 1665 … taking boat again at Billingsgate, and setting ashore we home and I to the office …
  • Monday 5 March 1659/60 … took me by water to Billingsgate, at the Salutation Tavern, whither by-a …
  • Thursday 31 July 1662 … and so took boat to Billingsgate, and went down on board the Rosebush at …
  • Friday 1 February 1666/67 … Thence by water to Billingsgate; thence to the Old Swan, and there took …
  • Friday 8 August 1662 … enter them again at Billingsgate. See Cavendish's "Wolsey,"  …
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