むなぎの話。
『万葉集』にはウナギのことを「武奈伎(むなぎ)」という古称で記されているそうです。日本では「うなぎの蒲焼」やら「丑の日」などがあり、おなじみのウナギですが、イギリスでも馴染み深いものでした。かつてウナギのたくさんとれる泥沢地帯に島があったことから、ウナギの島〔ウナギ(eel)+島(-y、-ey)〕を意味する『イーリー(Ely)』という地名があるように、昔からウナギの豊富な場所だったんですね。
さて、イギリスの中世時代に注目して勝手に書いている『マーケットの歴史』シリーズ。第3回目『ビリングスゲート・マーケット』の中で、当時ウナギは人気だったとあったので、今回はちょっとウナギの話です。
イーリー大聖堂(Ely Cathedral) |
イーリー大聖堂内には、ジョナサン・クラーク(Jonathan Clarke)氏による巨大な鋳造アルミニウム彫刻『The Way Of Life』があります。私は単純に十字架とウナギの融合なのかと思ってましたが違ってた。。。これは、人生は決して単純なものではなく、多くの紆余曲折を経て、キリストと共に暗闇から十字架の光へと旅するということを表現して作られたものだそうです。
大聖堂内 また、イーリーにあるジュビリー・ガーデンには地元の彫刻家ピート・ベイカー(Pete Baker)氏による高さ3mの亜鉛メッキ鋼のウナギの彫刻があります。 |
イギリスでは今でも、主にウナギのゼリー寄せ(Jellied eels)などスーパーで売られています。個人的にイギリスで売られているウナギは、見た目がちょっとグロくて、生臭いイメージがあるので、買ったことすらありません。チャレンジした友達曰く、不味かったと。。。正直なところ味は知りませんが、このウナギのゼリー寄せ、またはウナギの煮こごりというのは、18世紀に生まれた伝統的なイギリス料理なのだそうです。この調理法というのは、ウナギをぶつ切りにし、酢と水にレモン汁やナツメグなどを加えて煮込み、煮汁ごと冷やすことでコラーゲンなどのタンパク質がたっぷり溶け出しゼリー状に固まるというもの。他にも昔はウナギ・パイなどのメニューがありました。ウナギ・パイっていうと、日本で売られているパイ生地のお菓子思い出します。あれ、美味しいよね。
さらに面白いのは、中世時代うなぎが豊富に漁獲され、食料の他に「貨幣」代わりに使われていたということです。確かに、年貢じゃないですけど、物や食べ物で支払うことはよくあったことですよね。実際にドゥームズデーブック(Domesday Book)には、豚、魚、エール、その他多くの種類の食品での支払いが記録されているそうで、これら現物支払いの中でも目につくのがうなぎの家賃(eel-rents)なのだそうです。
イギリス中世のウナギの文化史を研究しているジョン・ワイアット・グリーンリー博士( Dr. John Wyatt Greenlee, PhD)は、「イール・レンツ・プロジェクト(Eel-Rents Project)」として、イングランドを対象にウナギ家賃の役割をマッピングしています。特に10~11世紀にかけて最も賃貸契約数(221件)・支払い量(539,785匹)が多く、12世紀には一度いずれも減少49件/60,052匹)しています。さらに13世紀、賃貸契約数(40件)は減少していますが、うなぎの支払い量(453,240匹)だけが増えており、家賃が値上がりしたと考えられています。15世紀~17世紀にはその件数も減少しています。うなぎの家賃は、コインが流通するにつれかなりゆっくりと消えていったようです。
資料によれば、ウナギ25匹で1スティックという単位があったそうで、串刺しにして焼いた際に、スティック(串)にさせたのが25匹だったためと考えられています。現代(2017)の価格に換算すると、だいたい一匹のウナギが約£0.25~£0.45、1スティックが約£6.26~£11.36の価値に等しかったようです。
- 1273年;1スティック=2d / 2d(1273)=£6.26 (2017) /1ウナギ=£0.25
- 1390年;1スティック=4d / 4d(1390)=£11.36 (2017) /1ウナギ=£0.45
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