コラクル・ボート

アイアンブリッジ(Ironbride, Shropshire)の近くにコラクル小屋があったので覗いてきました。コラクル(Coracle)とはまるみを帯びたキール(竜骨)のない小型軽量のボートの事で、アイアンブリッジでは、2004 年にユースタス・ロジャース(Eustace Rogers)という男性が亡くなるまで、ロジャース家では何世代にもわたってセヴン川のほとりのこの小屋でコラクルを作ってきたそうです。見えにくいですが写真(下)左手前にある小さな小屋がそれ。現在も保存されており、窓からの覗くとコラクル・ボートを見ることが出来ます。




以前、ケンブリッジのパントを紹介しましたが、やはりこちらも常に釣りや輸送が主な用途で、洪水時には流木を取り除くためにも使用されてきたようです。以前、アイアンブリッジを渡るには橋まで遠回りをしたり、通行料を支払わなければならなかったため、多くの村人はコラクルを使って川を渡っていたそうで、資料によれば、ほぼ全ての村人は、各自自分のコラクルを持っていて、使用しないときは木に吊るしていたのだとか。

コラクルはイギリスに限らず世界中で見られ、他にもカラック(currach)、ブル・ボート(bull boat)、クッファ(quffa)、パラシル(parasil)などとも呼ばれています。実はコラクルには数千年にわたる長い歴史があったんですね。初期の青銅器時代からおそらく氷河期までさかのぼって使用されたことが洞窟壁画で証明されているそうです。そのため、水上輸送の最初の形態である可能性が高いと言われています。

Source; Wikipedia
コラクルを利用するブリトン人
(from Cassell's History of England, Vol. I)

現地で入手可能な材料、使用目的、使用される水の条件、個人的な好みなどが反映されているため、その形状やサイズは地域によって異なり、英国だけでも20 を超えるさまざまなタイプがあるのだとか。コラクルの伝統的な構造は、現代でもほとんど変わらず、地元で採取された木材を使用して作られた籠細工のフレームに、牛や雄牛などの皮で防水を施しているそうです。

アイアンブリッジにおいて、生活の中でのコラクル文化は失われてしまいましたが、今でも伝統は受け継がれています。1990 年に設立されたコラクル・ソサエティ(The Coracle Society)などの組織を中心に、アイアンブリッジではロジャーズ家の小屋の保存・修復、コラクル制作コース、アイアンブリッジ・コラクル・レガッタ(Ironbridge Coracle Regatta;8月のバンクホリデー・マンデー)と呼ばれるイベントなどが開催され、コラクル製作の文化や遺産促進のための活動が行われているようです。イベントはちょうど来週だね。

因みに、ウィキちゃんによれば『coracle』という語は元のウェールズ語『cwrwgl』の英語綴りで、16世紀には英語のテクストで記録されているそうです。

参照;

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