マーケットの歴史-6.クイーンハイス

マーケットの歴史、6か所目は『クイーンハイス(Queenhithe)』です。『クイーンハイス』はテムズ川のほとり、セントポール大聖堂の南に位置したロンドンの小さなむかーしの区ですが、現在その名は使われていません。現在ミレニアム・ブリッジが掛かっている辺りです。おそらくはローマ時代に築かれたテムズ川沿いの最も古い小さな船の停泊港、港の1つと考えられ、『ハイス(Hithe)』とは荷上げ場、波止場などを意味するアングロ・サクソン語の『Hyd』に由来する言葉だそうです。9世紀までに、この港のあるローマン・ウォール(ローマ時代の城壁)内の土地はヴァイキングによって占領されていましたが、西暦886年にアルフレッド大王が再び占領し、ロンドンを再建した際にもこの港の存在が確認されているそうで、その港は「Aeðereshyð」、のちに「エゼルレッド・ハイス(Aetheredes hyd)」、あるいは「エゼルレッドが上陸する港(the landing place of Aethelred)」などと呼ばれていたことが分かっています。エゼルレッドは、元マーシアの領主でアルフレッド大王の娘エセルフリーダと結婚し、ロンドンを引き継ぎました。 

その港が『クイーンハイス』と呼ばれるようになったのは12世紀。ヘンリー1世(Henry I)の妻であるマティルダ女王(Queen Matilda)に(船の)ドック使用料が支払われたことから、この港は「クイーンハイス」として知られるようになったのです。そこは四角い入り江で、三方に波止場があり、13世紀までに、穀物やその他の食料品を取り扱うため主要なドックとなりました。


1560年代のマップに示されたクイーンハイス(イエローのラインで囲まれた部分)は、岸壁に沿ってザザザザザと垂直線が描かれています。単に陰かと思っていたのですが、よくよく説明を読むと「岸壁の端を支える垂直材」があったことを表していると考えられるとありました。初期のウォーターフロントは木材で建設されていて、石材が使われ始めたのは14世紀以降だそうです。また、右横にある大きなアーチの上に建っている家は、かつてウースター伯爵(Earl of Worcester)という貴族の住居だったことが分かっています。イギリスの歴史家の一人ジョン・ストウ(1524/25 – 1605年)の証言によると、それは彼の時代に「多くの長屋に分割された」そうです。

Drawing of Queenhithe by Hugh Alley.
Image courtesy of the Folger Digital Image Collection

マーケット自体の情報は少ないのですが、トウモロコシや魚などの食料品を扱ったマーケットが毎週月曜、水曜、金曜日に開催され、ロンドンで増加していた人々の食卓を補っていたようです。ただ、ロンドン橋の上流にあるということで、大型船がクイーンハイスで荷下ろしすることが困難となり、大型船はロンドン橋下流の大型船が停泊できるビリングスゲートを使用するようになりました。そして穀物の供給が大幅に減少すると、穀物商人は移転し、代わって皮職人や毛皮貿易業者が移動してきました。貨物はボートによって上流に運ばれ、この地域は20世紀までロンドンの毛皮貿易の中心だったようです。ヨーロッパでは「小氷期(LIA; Little Ice Age)」と呼ばれた最も寒い時期があり、1608-1789年頃にはテムズ川上で『フロストフェア(Frost Fair)』が何度か開催されたくらいですから、当時、毛皮の需要は高まったと考えられます。

Source; Dpaajones at English Wikipedia,
CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10105903

また、1666年9月のロンドン大火の際には、当時国王であったチャールズ2世(Charles II;1630-1685)がクイーンハイスから上陸し、破壊の程度を確認し、消火活動の支援を行ったそうです。ドックは現在も残っていますが、長い間使用されていないのでひどく沈泥が溜まっていて、全く魅力的ではありません。ただ、今回調べていて、クイーンハイス・ドックの壁には、30mにわたってロンドンの歴史をデザインした『クイーンハイス・モザイク(Queenhithe mosaic)』というものがあるとありました。ふむふむ。そういえば、以前偶然にもモザイクなるものを見て写真を撮った気がする。。と思い、写真を引っ張ってきました。やはりクイーンハイス・モザイクでした。2014年に完成したこのモザイクには、ドックの建設に関わったり、利用したり、近くに住んでいた歴史上の重要人物がタイムラインで描かれているそうです。ついつい流して見てしまうんですが、よく見ると奥が深いんですね。今はコロナで難しいですが、ロンドンを散歩してテムズ川沿いを歩いていると、こういった作品などに出会え、目を楽しませてくれるのでお勧めです。

クイーンハイス・モザイクの一部
参照;

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