気候地名。

日照、雨、風、影など、気候要素に関する文字の含まれた地名を『気候地名(Climatic place-name)』といいます。そこには、例えば津波などの過去の自然災害に関する先人の教えが含まれていたりする場合もあります。そのため、最近では環境指標として地名の価値に注目する人も増えてきた気がします。

私たちは、最新のテクノロジーを駆使した天気予報で、簡単に天候を知ることが出来ますよね。以前、『観天望気』や日本昔話の『ひよりみどん』の話に触れましたが、昔の人、あるいは最初の入植者、その場所に住み着いた人々は一番気候に敏感だったのかなぁと思います。何せ、住居であるとか、作物を育てたり、動物を飼育したり、常に天候に左右された生活を余儀なくされていたからです。

そんなわけで、イギリスの『気候地名』をいくつか紹介します。まずは、分かりやすい『コールド・アッシュビー(Cold Ashby; West Northamptonshire)』と『コールド・イートン(Cold Eaton; Derbyshire)』です。これらは明らかに「寒い」土地であったことを示しています。まず『コールド・アッシュビー』については、ノーサンプトンシャーで最も高い場所にある村とされ、地名は「アッシュ・ツリー(トネリコの木)の農場/集落」あるいは、「アスキという名の人の農場/集落」を意味すると言われています。そして、コールドは字のごとく「野ざらしの寒い」状況にあったことを指しています。おそらく風がピープー強く吹き抜けたり、寒い場所であったけど、良質の土壌であるとか水源であるとか、何らかの利点があって人々が住み着いたのだと考えられています。『コールド・イートン(またはColdeaton)』は略してイートンとも呼ばれている場所です。ちなみに名門イートン校(Eton)のある場所とは違いますよ。スペルも違うし。1086年のドゥームズデー・ブックには「島の(ように孤立した)農場」を意味する『Eitune』として知られ、わずか2世帯の人口が記録されていたのだとか。ダヴ川(the River Dove)土手の急斜面上にあり、ここも野ざらしの寒い場所だから「コールド」が付いているんですね。

他に、『サマートン(Somerton)』や『ウィンタートン(Winterton)』という地名もあります。こういう地名は一般的な地名だそうで、1年のうちのある時期のみ住んでいた農業集落を意味しているそうです。なるほど。『サマセット(Somerset)』という地域名もあるように、もともとは牛を引き連れ、夏の期間だけ人々が移り住んだことということなんですね。そのライフスタイルは「アルプスの少女ハイジ」の生活を想像しちゃいます。サマセットで言えば、葦や柳の土壌はかつて今よりもずっとずっとぬかるんでいたようで、夏になると少し乾いて豊かな牧草地となったことから、農民は牛の群れ引き連れてきて牧草地に放牧し、一時的に小屋に住んでいたという訳です。それとは逆に、ウィルトシャー(Wiltshire)とドーセット(Dorset)周辺の地域では、夏には小川の水も流れ落ちて、谷底が干上がって放牧地には適さなかったのだとか。ドーセットの海岸に流れ出る川の1つに「ウィンターボーン(River Winterborne)」があり、これも冬には潤沢に水が流れるけれど、夏や降雨の少ない時期には完全に干上がっちゃうという「冬の川」の意味があるそうです。面白いですね。

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参照;
  • The Tracing The History of Place Names, Charles Whynne-Hammond, Apects of Local History Series
  • The Book of English Place Names, Caroline Taggart, Ebury Press
  • The Concise Oxford Dictionary of English Place-names, Eilert Ekwall, Oxford
  • A Dictonary of English Place-names, A.D.Mills, Oxford
  • [Cold] Eaton | Domesday Book (opendomesday.org)
  • Wikipedias
  • The Local History Companion, Stephen Friar, Sutton Publishing

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