動物にちなんだ地名。

昔の人々は、自然の恵みを最大限に活用して生活してきました。例えば、狩りや釣りをし、卵や蜂蜜を集め、動物の排泄物は肥料として再利用してきたわけです。そして食料、衣服、労力を供給するために、多くの牧草地を家畜化しました。農業、狩猟、採集などの活動と共に、動物は農業経済の主力であり、イギリスではそんな動物に関連して名付けられた場所がたくさん存在します。

最も一般的な家畜は『羊(Sheep)』でしょう。羊毛取引の成長とともに重要性が増しました。例えば牧場の『シップトン(Shipton)』、『シップレイ(Shipley)』、ボーン川(The River Bourne)のほとりにある『シップボーン(Shipbourne, Kent) 』や、同様に小川が流れる『シップメドウ(Shipmeadow, Suffolk)』などは、いずれも羊に由来した名前です。また、古英語の「sceap(羊)」に由来した「shep‐」、「scep‐」、「scip‐」、「scyp‐」などの接頭辞がくる言葉や、古英語の「ramm(ラム)」に由来した地名『Ram』などもあります。但し、オックスフォードシャーにある『シッポン(Shippon)』は由来が異なり、牛小屋からきているのだとか。

また、貧しい地理的条件に適したヤギ(Goat)も、古英語の「gat」または「gaeten」、乳母ヤギの言葉とされる「ticcen」などの地名が今に残っています。

は、『オックスフォード(Oxford)』や『バルマー(Bulmer)』などの地名が示すように多くの居住地があり、肉、牛乳、皮革、骨を提供することで地域経済を支え、また荷役動物としても使用されました。『オックスフォード・オエンホルム(Oxford Oenholme, Cumbria)』、『グレート・オクセンドン(Great Oxendon, Northamptonshire)』は、牛が渡れる小川のある牧草地や谷間で放牧されていました。ロンドンにある『キルバーン(Kilburn, in London)』もまた、雌牛や牛のいる小川があったことを意味する古英語に由来するとされています。他に「cu(牛)」、「calf」、「hrither(牛の別名)」、「weorf(荷役用の獣の総称)」に由来する接頭辞も見られるそうです。

が飼育されていた集落では「swin」や「stig」で始まる地名があります。例えば『スウィンドン(Swindon, Wiltshire)』は丘、『スウェインフリート(Swinefleet, Yorkshire)』や『スウィンフォード(Swinford, Lincestershire, Oxfordshire)』はフォードの周辺で豚が飼われていたようです。古英語「stig」は「stigu」に由来し「豚の住むところ(sty)」を意味します。因みに、古英語の「stig-weard」は「豚の見張りをする人、豚の番人(sty-guardian)」を意味し、一昔前まで、フライトアテンダントをスチュワーデス・スチュワードなどと言いましたが、その「スチュワード(steward)」の元となった言葉だそうです。面白いですね。

一方で、はあまり地名にはなっていないようです。もともと馬はノルマン征服(1066年)後まで一般的には使用されず、デーン人が競馬を楽しむ程度だったそうです。そのため、競馬コースという言葉から、いくつか「スキース(skeith)」の地名が生まれています。馬を表す古英語(hors、hyrse、fola)の付く地名では稀なようですが、『ストッドマーシュ(Stodmarsh, Kent)』のように「ストッド(Stod-)」で始まる場所では、馬が飼われていた事実があるようです。

狩猟に人気のイノシシ(wild boar)は、古英語で『eofor』といい、様々な場所にみられる『エヴァートン(Everton)』の地名や、『エヴァーショット(Evershot, Dorset)』、『エヴァーズリー(Eversley, Hampshire)』、『エヴァーズホルト(Eversholt, Berkshire)』は全てイノシシに関連している地名だそうです。

因みに、狩猟、動物の群れ、財産保護を目的に訓練を受けたは、通常『Hunde』と呼ばれる地名で表示されるのだとか。 

鹿は『ハートランド(Hartland, Devon)』、『ヒンドヘッド(Hindhead, Surrey)』、『バックデン(Buckden, Yorkshire)』、『イースト/ウェスト・デレハム(East and West Dereham, Norfolk)』、『ダーリー・デール(Darley Dale, Derbyshire)』の地名に見られます。

養蜂はアングロ・サクソン時代初期から行われており、『ビービー(Beeby, Leicestershire)』と『ベオリー(Beoley, Worcestershire)』のように、「Beo- 」または「Bee-」で始まる地名は蜂の巣が保管されていた場所を示し、『ハニトン(Honiton, Devon)』は明らかに蜂蜜が作られた場所を示しているそうです。

また、ちょっと意外でしたが、古くから治療に使われてきたヒル(a leech)も重要な生物で、実はこれも、ヒルを意味する古英語「Laece」から、ヒルのいる沼地を意味する『Latchmere』などの名前が残っているそうです。

他に野生動物として、『ビバリー(Beverley in Yorkshire)』やビーバーが巣をつくった場所に由来する『ビバーコート(Bevercotes, Nottinghamshire)』は ビーバーから、『ウォルフォード(Wolford, Warwickshire)』や『ウルビー(Wolvey, Warwickshire)』はオオカミに由来し、オオカミから保護された場所を意味したそうです。但し、『バッジャー(Badger, Shropeshire)』はバジャー(あなぐま)に由来せず、個人名から来ているのだとか。

狩猟鳥、フィンチやヒバリなどの鳥は食用とされ、鋭い爪とくちばしを持つ猛禽類(もうきんるい)は狩猟やスポーツに用いられいました。『フィンチングフィールド(Finchingfield)』、『クランフォード(Cranford)』、『ゴスフィールド(Gosfield)』、『ラークフィールド(Larkfield)』などの地名がそう。 「earn」と「hafoc」を含む地名は、それぞれワシタカを示し、 狩猟鳥、ハト、にわとり(fugol)等は全て、冬の間の新鮮な肉として非常に重要なものとされていました。

こうしてみてみると、それぞれの動物たちが、その地域で重要な役割を担っていたことが分かりますね。但し、注意しなければならないのが、これら動物の要素が含まれている地名だったとしても、必ずしも動物に直接由来したものではないということです。なぜなら、部族のリーダーは、その個性や身長などから名前やニックネームが付けられることが一般的だったからです。例えば、戦士にはオオカミなど怖いもの知らずの動物の名前が付けられ、運動神経の良い人には、野兎のようなすばしっこい動物の名前が付けられている可能性があります。アングロ・サクソン時代を通し、そのような人間/動物の名前という例は、数多くみられるのだそうです。例えば、5世紀にアングル人・サクソン人・ジュート人を率いてブリテン島に侵攻したとされる伝説的な指導者の兄弟、ヘンギスト(Hengist)とホルサ(Horsa)の名前は、古英語では「Hengest 」と「Horsa」と書き、それぞれそれぞれ「種馬」「雄馬」を意味する言葉だと言います。また、7世紀のロチェスターの司教(Bishop of Rochester)は、鷹(a hawk)を意味する「プッタ(Putta)」と呼ばれ、マーシア王の1人はカブトムシ(a beetle)を意味する「ウィッグス(Wiggs)」と呼ばれていました。イノシシを意味する「Eofor」や、オオカミを意味する「wulf」もまた、サクソン人の一般的な名前だったようです。そういえば、地元宮城県の地名を調べていた時も、結構『鹿』の付く地名が出てきたことを思い出しました。まだまだ沢山ありますが、今回はこの辺で。。。

Source; Wikipedia
The brothers in Edward Parrott's Pageant of British History (1909)

参照;
  • The Book of English Place Names, Caroline Taggart, Ebury Press
  • Tracing The History of Place Names, Charles Whynne-Hammond, Aspects of Local History Series
  • https://en.wikipedia.org/wiki/Hengist_and_Horsa

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