くま。

イギリスで『クマ』というとパディントン・ベア(Paddington Bear)やルパート(Rupert)など、つい愛らしいキャラクターを連想してしいます。野生のクマといったら、やはり北極だとか北米、日本ですかね。では、イギリスにクマはいたんだろうか?答えはイエスです。遠い昔、イギリスにも野生のクマ(brown bears)が生息していたそうです。ヨークシャー・デール(Yorkshire Dales)にある洞窟からは、絶滅したとされるクマの最後の足掛かりとなる骨が発見されているそうで、残念ながら中世初期に絶滅したか、青銅器・新石器時代には姿を消したと考えられています。とは言え、生きたクマは戦いやディスプレイのためにローマ人によって輸入されていました。

事実、イギリスにはかつて『ベアーガーデン(bear garden)』と呼ばれた闘技場がありました。そこでは、クマ(や雄牛など)を痛めつけ、苦しめることを見世物にした残酷なスポーツが行われていた所です。そのために高価なクマが輸入されていたのです。クマの足や首を鎖で杭につなぎ、犬の群れなどを放って攻撃するというものです。可哀そう。。。そしてクマが死んでしまうと、死体は殺した犬に餌として与えられる以外ありませんでした。雄牛の場合はクマに比べて安く、また死体も肉屋に売ることができたことから、ロンドンの人々は単純に痛めつけるから肉が柔らかくなるとさえ信じていたといいます。実は、このようなブラッド・スポーツは男女問わず16・17世紀のイングランドで最も愛されたエンターテイメントの一つでした。そもそも、ニワトリの雄を戦わせる闘鶏は子供の遊びでした。犬を打つのはしつけ、子供が悪いことをしたら分かるまで打つのが当たり前の時代です。気性の荒い夫のDVも容易に想像できますね。今でこそ、そのような残酷な見世物は姿を消していますが、イギリスに限らず過去には様々なところで存在した訳なのです。


Source; Wikipedia
The Bear Garden



かの有名なウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)は四大悲劇のひとつ『マクベス(Macbeth Act 5 Scene 7)』の終盤で、次のような表現を使っています。「私は杭につながれてしまった。もう逃げられない。熊のように、当然戦わなければならない(They have tied me to the stake, I cannot fly, But, bear-like, I must fight the course)』。この表現は、ベアーガーデンで行われた熊いじめ(Bear-baiting)から来たもので、マクベスはクマと同じように杭につながれたまま、もう逃げられない、自分の運命を受け入れるしかないと観念している様子を描いています。

そもそも、マクベスってどんな話だったかというと、魔女に「あんたは王になるで。女の股下から生まれた者は誰もあんたを倒せないで」と予言され、ついついその気になったマクベスは、かみさんにもそそのかされて王を殺し、自ら王になるのです。邪魔な者は殺すも、疑心暗鬼に悩まされ続けます。そして最後にマクベスを倒したのは、魔女の予言通り、女の股下から生まれた者ではなく、腹を破って(帝王切開)生まれた者だったという話です(注;かな~り噛み砕いて要約したので内容やイメージは歪んでます。あしからず)。

実際、熊いじめはシェークスピアの時代に人気があったエンターテイメントだったんですね。バンクサイド・シチューでも書きましたが、劇場のあったバンクサイド周辺地域は賭博宿や売春宿、熊いじめなどが営業される歓楽街だったようです。なんだかとっても治安が悪そう。。。
Source; Wikipedia
ベアガーデンとローズ座の位置関係を示した1593年の地図

参照;

  • https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-44699233
  • https://www.theguardian.com/environment/2018/oct/01/country-diary-cave-secrets-of-lost-charismatic-carnivores
  • The time traveller's guide to medieval England, Ian Mortimer, vintage books
  • Shakespeare's London on 5 groats a day, Richard Tames, Thames & Hudson
  • The Oxford Shakespeare, The complete works, General editors, Stanley Wells and Gary Taylor, Oxford
  • https://mapoflondon.uvic.ca/BEAR1.htm

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