シェークスピア語録-In a pickle

2012年に開催されたロンドン・オリンピックのオープニングで、シェークスピアの『テンペスト(The Tempest)』が引用されました。あれからもう10年以上経過していることにびっくりする。そんな『テンペスト』の中に『in a pickle』というフレーズが登場します。『pickle』とは「ピクルス(さまざまな野菜の酢漬け、漬物)」のこと。瓶詰されたピクルスを想像してみて下さい。日本には『すし詰め』状態という言葉がありますが、その言葉同様にここでは隙間なくぎゅうぎゅうに詰まって身動きが取れない様子を指しています。そのことから、身動きが取れずどうすればよいのか分からない状態、つまり「〔be~〕困っている、厄介なことになっている、苦境にある、窮地に陥る」という意味で使用されます。現代ではちょっと古めかしい表現ですけどね。因みに、すし詰め状態を英語にするとイワシの缶詰(packed like ( a can of ) sardines)状態という表現があります。

ピクルスと言えば世界中で何千年と行われてきた一般的な食品保存法です。食べ物を腐らせずに長持ちさせるために漬けられた食品は、長い航海に出た船乗りの食事や、寒い冬に備えて傷みやすい食べ物を保存する際に非常に役立ちました。ニューヨーク食品博物館(The New York Food Museum)によれば、そのプロセスの正確な起源は不明なものの、考古学者たちの間では古代メソポタミアの漬物は紀元前2400年まで遡ると考えているそうです。

英語の『Pickle(ピクル)』という言葉は1440 年頃に初めて登場しました。これは中英語で肉や魚と一緒に提供されるスパイシーなソース『Pekel』に由来し、もともとはピクルスを作るのに使用される塩漬け溶液に保存することを指すオランダ語(Middle Dutch)、あるいは中世低地ドイツ語(Middle Low German)の『pekel』からきたものと考えられています。『in a pickle』というフレーズ自体がオランダ語のイディオム(in de pekel zitten)の直訳であるという説もありますが、いずれにせよ、シェークスピアが英語のこのフレーズを広めました。

『テンペスト』は1611年の作品で「嵐」を意味します。話の中でナポリ王アロンゾーとミラノ大公アントニオ一行が船でナポリへの帰路の途中、嵐に見舞われ難破して島に漂着します。アロンゾー王の執事ステファノと道化師のトリンキュロも同様、島に漂着します。ステファノはワインの樽にしがみついて生き延びており、島に上陸して以来、2人は酒を飲み続けました。その後、アロンゾー王と再会した際、王はトリンキュロに尋ねました。意訳;「トリンキュロはふらつくほど酔っ払っている。そこまで豪勢に酔わせた偉大な酒はどこで見つけたのだ?どうやってこのピクルスに漬かって来たのだ?」。トリンキュロは答えました。「最後にあなたにお会いして以来、私はとても酔ったひどい状態にありました。骨の髄まで漬けられて、決して酔いが抜けることはないのではないかと思うと恐ろしい。しかし、漬かった状態のままであれば、たとえ死んだとしても体がウジ虫に蝕まれ、ハエが卵を産むこともありません。」

テンペスト(The Tempest;Act5, scene1);
ALONSO: 
And Trinculo is reeling ripe: where should they
Find this grand liquor that hath gilded ’em?
How camest thou in this pickle?

TRINCULO:
I have been in such a pickle since I
saw you last that, I fear me, will never out of
my bones: I shall not fear fly-blowing.
シェイクスピアはおそらく、漬ける過程で時々使用されるアルコールがトリンキュロを泥酔状態にさせたということ、そして苦境にあるという二重の意味で使っていると考えられています。

さて、ピクルスと言えばイギリスではモルトビネガーにトマト、リンゴなどを混ぜた甘めのスパイス・ソースに野菜を漬けた『Branston Original Pickle(ブランストン・オリジナル・ピクル)』が有名です。我が家でも主にサンドウィッチ用に買っています。実はブランストンのピクルスは、日本企業のミツカングループがブランド名と生産設備を取得していたんですね。そのためラベルを見るとミツカンさんの名が。。ミツカンさん、お世話になってます。


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