スコットランド;ロッホ・アシントのマーメイド伝説。

スコットランド、ハイランド北部地方にあるサザランド(Sutherland)には、ロッホ・アシント(Loch Assynt、以降アシント湖)という淡水湖があるそうです。ここではトラウトやサーモンなどがよく釣れるそうで、アシント湖のほとりにはかつてはマクラウド家(The MacLeods)、のちにマッケンジー家(The Mackenzies)が所有していたと言われるアードレック城(Ardvreck Castle)が、現在、廃墟となって立っています。写真で見る限りなかなか雰囲気のある場所ですが、アシント湖のほとりを散策していると、単なる風のいたずらか、伝説的なアシント湖のマーメイドが生きられなかった人生を嘆いてすすり泣く声が聞こえると言われています。

Source; Wikipedia
Ardvreck Castle by Paul Hermans, 2 June 2011

このマクラウド(MacLeod)という名は「ラウドの息子」を意味し、実在の一族ですが、伝説によればその祖先の誰かがここにアードレック城を建設していたとき、財政難に遭遇したそうです。すると、ある夜、エレガントな服装をした紳士がやって来て、建設の手伝いと資金提供を申し出ました。タダより怖いものはない。マクラウドが紳士を食事でもてなしていると、紳士は自分が悪魔であることを明かし、見返りにマクラウドの魂をくれれば、立派な城にすると約束しました。こうしてマクラウドは自分が悪魔と取引していることに気づくのです。しかし、そこにマクラウドの娘エイムヒアが現れると、悪魔はマクラウドの魂から娘との結婚に要求を変更しました。難しい決断でしたが、マクラウドはこの城をひどく欲しがり、取引を受け入れて娘エイムヒア(Eimhir)を花嫁として差し出すことにしました。アードレック城は数日で建設され、約束通り娘は紳士と結婚することになりました。それまで娘は何も知らされませんでしたが、選択の余地はなく、忠実に取り決めに従いました。ところが、結婚前夜マクラウドは良心の呵責から、娘に悪魔との結婚であると真実を伝えるのです。エイムヒアは涙を流し、翌日結婚前に完成したアードレック城の塔の最上部から、下のアシント湖に身を投げ飛び込みました。悪魔は拒否されたことに激怒し、怒り狂い、マクラウドの土地を破壊しようと、空から巨大な岩を落下させたため、今日見られるような岩の散らばった風景になったといいます。実際、これらは約 12 億年前にスコットランド北西部に宇宙からの物体が衝突したことを示す科学的発見と何らかの関係があると考えられているそうです。

誰もがエイムヒアは死んだと思いましたが、彼女の遺体は発見されませんでした。その後、湖の近くで泣き声がするようになり、時折、大きな尾が水面下に消えていったことから、エイムヒアはマーメイドに姿を変え、地表の奥深くにある洞窟で悪魔から身を隠していたのだと言われるようになりました。実際、アシント湖の水位は一定ではなく、降雨量により異なるそうですが、水位が上昇するのはアシントのマーメイドが生きられなかった人生を嘆いて涙を流しているためだと考えられているそうです。彼女が岩の上で泣いているのを目撃したと主張する人さえいたそうで、他に北欧神話の海の生き物セルキー(selkie)とも呼ばれています。

湖の水位の変化であるとか、岩のごつごつした地形的特徴を神話と絡めているのも興味深いですし、今回は魔女ではなく悪魔が登場するというのも個人的には斬新でした。スコットランドの暗い歴史、壮大な風景やその雰囲気と相まって、なかなか暗く、重く、物悲しい伝説だなと思いました。実際、すすり泣くマーメイド伝説だけではなく、彼女の幽霊や他の幽霊が城の近くを彷徨っているという話もあるようです。

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