シェイクスピア語録-Bedroom

「寝室」を指す『ベッドルーム(Bedroom)』という言葉は、日本語でもそのままよく使用されますよね。実はこの言葉もシェイクスピアが生み出した言葉の一つで「ベッド(Bed)」+「部屋(Room)」で「ベッドを収容することを目的とした部屋」を意味したんですね。それ以前は「睡眠または休息のための部屋」と言う意味で「ベッドチェンバー(Bedchamber)」という言葉が使われていました。今でもお城などに行くとベッドチェンバーとして展示されていることがありますが、現代においては古風な表現であり、日常では「ベッドルーム」を使うのが一般的です。「ルーム(Room)」は古英語で『Rum』であり、「広々とした、広い、長い、十分なスペース」などという意味がありました。一方、チェンバーは「壁、または仕切りで区切られた建物の内部分割」を指していました。


ベッドルームは「ベッドを収容することを目的とした部屋」とするならば、「睡眠または休息のための部屋」とは違うのか?と思ってしまいますが、実はベッドルームは、もともと単に頭・体を休める場所以上のものを意味していたと言います。と言うのも、過去記事「ベッド」で紹介したように、貧しい人々はわらをベッドとして使用していましたが、貴族やブルジョア家庭において、木製の枠で作られたベッドは「富」や「社会的地位」の象徴だった。なので、その家にある一番豪華なベッドは自慢げに訪問客の目につくように一階の部屋に置かれたり、あるいは社交の場となることも珍しくなかったそうなのです。確かに昔のベッドは天蓋付きであったり、立派な装飾が施されていたり、今見ても非常に重厚で豪華です。

「ベッドルーム」という言葉が登場するのは、シェイクスピアの作品『夏の世の夢(A Midsummer Night's Dream; Act2 Scene2, 57)』です。ライサンダーとハーミアが森の中を歩き、夜の休息の準備をしている場面。2人は恋人同士、一心同体なのだから、自分を拒否する寝室はない。つまり、添い寝する僕を拒まないでよ~的な会話の部分です。たぶん。
LYSANDER; Then by your side no bed-room me deny; For lying so, Hermia, I do not lie.
因みに、ロンドンのV&A博物館には、エリザベス王朝で最も豪華なベッド『グレート・ベッド・オブ・ウェア(the Great Bed of Ware)』が展示されています。V&Aへ行った時になんとなーく見た気はするけれど、すっかり忘れてる。。。でも、本当に素晴らしいベッドです。今度行ったら注意してよく見てみよう。巨大なオーク材を使用して作られたこのベッドは、約335cm四方あり、4本の装飾された太いオーク材の柱が重そうな屋根の部分を支えています。キングサイズのベッドで大体160×200cmなので、いかに大きいかが分かりますよね。もともとこのベッドはウェア(Ware, Hertfordshire)という町にあるホワイト・ハート・イン(White Hart Inn)に収容されており、地元の大工(Jonas Fosbrooke)によって1590年頃に作られたものと言われています。興味のある方は、下のV&Aの映像(英語)をご覧になると、ベッドの構造がどうなっているのか、寝具が滑り落ちるのを防ぐベッドステーブ(bed-staves)という道具があること、また(このベッドに寝た人たちの)落書きの傷などを見ることができるのでおススメです。因みに「ゆっくりお休み」、あるいは「ぐっすり眠りなさい」という言葉「スリープ・タイト(Sleep tight)」という英語も、ベッドのロープをきつくピンとはった(tight)状態に保ったことから生まれたという説もあります。面白いですね。とにかく、こんなに大きくて立派なベッドを置けちゃうほど、広い部屋があったということなのです。自慢したくなるのも頷けます。このベッド、幽霊が出るという噂もあるようですけどね。


実はこの「グレート・ベッド・オブ・ウェア」は、シェイクスピアが1601年に最初に上演した戯曲『十二夜(Twelfth Night; Act3 Scene2, 45)』の中でも言及されており、サー・トービー・ベルチが一枚の紙を「...ウェアのベッド程の十分な大きさ」だと説明しています。
the sheet were big enough for the bed of Ware in England,
シェイクスピア自身、遺言で妻に2番目に良いベッドを残しました。ここまで大きなベッドではありませんが、つまり、彼の家には少なくとも2つのメインベッドがあったことがわかりますね。「ベッドルーム」という言葉の意味を深く考えたこともありませんでしたが、当時は富や社会的地位を誇示する家具の一つがベッドだった訳で、それを収容する部屋という意味合いがあったんですね。実はなかなか興味深い話があったんだなぁと思いました。

Source; Wikipedia
By Harper's New Monthly Magazine, December 1877, page 23, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4022392

参照;

コメント