トリンケット・ボックス

学生時代、英国留学中にマーケットで貴族の絵がプリントされた小さな小さな陶器の小物入れを買いました。今思うと、あれが『トリンケット・ボックス(Trinket Box)』と呼ばれるものだったんですね。『トリンケット』はちょっとしたアクセサリーを意味し、それをしまっておく「小物入れ」が『トリンケット・ボックス』という訳です。

古代から人々は装飾品を身に着けてきました。当然ながらそういった貴重品を安全に保管するために箱が必要だったわけですよね。貴族などはもちろん、宝飾品を保管するために多くの箱を所有する必要があったわけですけど、イギリスではビクトリア朝時代まで一般にジュエリーを所有することは贅沢でした。生産コストの削減により、高級宝飾品などが大衆に利用可能になったのは産業革命後。つまり、当初は数はそんなに持ってないけど、すぐ失くしてしまいそうな小さなジュエリーをちょいと入れておく小物入れが必要ということで、小物入れの需要が生まれたのです。単に「ジュエリー・ボックス」ではなく、「トリンケット・ボックス」として知られているのはこのためだそうです。とはいえ、大量生産される以前は、熟練した芸術家によって設計された非常に手の込んだ物もあり、例えば宝石で装飾した卵型のファベルジェの卵(Fabergé egg)などのように、中に入れられる宝石と同じくらい価値があると考えられていたものもありました。「トリンケット・ボックス」は木材、金属、セラミックなど様々な素材、様々なデザイン、そして様々な色のものが存在しています。

今でも、装飾品は贅沢品に違いないですけど、安価で可愛らしいものがたくさんあって、昔に比べたら気軽に手に入るようになったので、個人的にトリンケット・ボックスと呼ばれる小物入れは保管するには小さすぎるという感覚でした。単に置物・飾り物的な存在になってしまいがちで実用性が低いというか、ほとんど使っていなかったんですが、最近になって使用目的ができました。でも肝心のブツは日本に置いてきてしまったぞ。。。そんな訳で、去年から中古品を探していたんですが、気に入るものがなかなか見つからなくて、やっとアンティーク・マーケットで満足いくものを見つけて買いました。と言ってもがらくた蚤の市のようなマーケットで、いずれも汚れた状態で安値で売られていたものです。洗ってぴっかぴかになりました。それでも一応、左はクラウン・デボン(Crown Devon)、右はウェッジウッド(Wedgewood)のオズボーンです。1つは四角系の陶器でブルー系のものがあれば良いなと思っていたので、まさに希望通りの物が見つかりました。たかがトリンケット・ボックス、されど根気よく探してみるもんですね。


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