ヒルフィギュア

地上絵というと、まずナスカの地上絵を思い出してしまうのだけれど、イギリスにも地上絵が存在します。私はどれも見たことはないんですけど、ヒルフィギュア(hill figure)と呼ばれ、石灰岩の丘陵地帯に描かれた地上絵です。有名なところでは「アフィントンの白馬(Uffington White Horse)」、「サーン・ジャイアント(The Cerne Giant)」、「ウィルミントンのロングマン(The Long Man of Wilmington)」などがあります。おそらく、写真は目にしたことがあると思います。これらの多くはイングランド南部に集中しているそうですが、北部でも確認されています。実はたくさんあるんですね。最も一般的な絵は馬で、他に人や動物、十字架や紋章などもあるそうです。よく古代遺跡と勘違いされるようですが、実は、多くのものが18世紀以降に作られたものなのだそうです。意外でした。それらはおそらく宗教的なもの、記念碑、広告、政治目的など様々だそうで、不明確なものも多いそうです。ただし「アフィントンの白馬」は例外で、青銅器時代のものと言われています。確かに、ヒルフィギュアは定期的な保守作業を続けないと、風化・埋没して消滅してしまいます。なので、現存するということは長い間、定期的な手入れがなされてきた証拠でもあるんですね。

最も古い『アフィントンの白馬(Uffington White Horse; Oxfordshire, England)』
アフィントンのホワイトホースは、深い溝(深さ3ft)に砕かれた白チョークを埋めた長さ110m(360ft)の先史時代のもので、現在はナショナルトラストが所有・管理しています。当初は、イングランド西部で同様の馬の絵のコイン(Dobunnic coin)が発見されたことから、馬の女神を崇拝していたケルト人によって造られ、鉄器時代にさかのぼると考えられていました。ところが、現在は青銅器時代のものと考えられているそうです。ただし、その目的は明らかになっていません。

Source; Wikipedia
Sattelite view of the Uffington White Horse

類似するというコインは、ローマ軍が来る以前に、イギリス諸島に住んでいた鉄器時代のドブンニ部族(Dobunni)のもので、ドブンニとはケルト語で勝利を意味する「bouda」に由来し、勝利した者(部族)を意味する名前だと考えられているそうです。確かに似ていると言われれば抽象的な感じが似ている気もする。。。

Source; Wikipedia
Celtic British Silver coin of the Dobunni tribe. 
Obverse face right, boss on chin, wheel in front. 
Reverse horse left, wheel below. 13mm diameter.

アフィントンの馬の形は何世紀にもわたって変化しているので、現在の輪郭がオリジナルと異なる可能性があります。そもそも、これが馬なのかどうかも定かではなく、少なくとも11世紀から馬と呼ばれているそうです。中世ウェールズ語の写本『Llyfr Coch Hergest(ハージェストの赤本;1375-1425)』には次のように記されているそうです;「アビントンの町の近くに種馬の姿を持つ山があり、それは白色をしている。その上には何も育たない(Gerllaw tref Abinton y mae mynyd ac eilun march arno a gwyn ydiw)」。

1677年~18世紀後半頃までに、7年に一度、真夏に「スカウアリング・フェスティバル(scouring festival)」が開催され、その間に地元の人々は馬のチョークの輪郭をきれいにし、丘でお祝いのごちそうを楽しんだといいます。この他にも下の写真(Cherhill White Horse, Westbury White Horse)のような馬のヒルフィギアがあり、アフィントンのホワイトホースを参考にしているとも言われているようです。


最も有名な『サーン・ジャイアント(The Cerne Giant; Dorset, England)』
ドーセットにあるサーン・ジャイアントの歴史は「アフィントンの白馬」と異なり、実は17世紀後半以上に遡ることができず、それ以前の起源を実証することは困難なのだとか。1617年の土地調査によれば、ジャイアントに関する言及がなく、当時はなかった、あるいは生い茂っていたことを示唆しているそうなのです。なのでその姿の起源と時期は不明。高さ55m(180ft)、幅51m(167 ft) 、右手には巨大なクラブ(120ft)を持って立っている裸の男性で、大きな睾丸と勃起したペニスが画かれているのが特徴。昔から生殖の象徴とされており、地元では古くからジャイアントの上に女性が寝ると妊娠するというような子宝の迷信にもつながっているそうです。1996年の調査では、やはりその姿は時間の経過とともに変化しており、もともと左腕にマントを持ち、胴体から切り離された頭の上に立っていたと結論付けています。さらに、2008年の特殊な設備を使用した調査においても、マントの存在が裏付けられたそうです。マントには動物の皮膚の描写があった可能性もあり、ジャイアントはハンターの描写、あるいはギリシャ神話に登場するネメアーの獅子(Nemean Lion)の皮膚を抱えるヘラクレスと言われています。

Source; Wikipedia
By PeteHarlow, This file was derived from:
The Cerne Abbas Giant - 011.jpg, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=70903693

最も巨大な『ウィルミントンのロングマン(The Long Man of Wilmington; South Downs, Sussex)』
ウィルミントンのロングマンは西ヨーロッパで最大の大きさで、身長72m(235ft)、2つのこん棒(staves)を保持し、下から見ると比例して見えるように設計されているそうです。ロングマンの起源に関しては、数多くの理論や伝説があるものの不明なまま。長い間、最も古い記録は、現在のこん棒よりも短い熊手と鎌を持つ姿を示した1766年の図面でしたが、1710年に測量士が描いたとされる図面が1993年に発見されているそうです。ロングマンが先史時代のものと確信している人もいれば、11~15世紀に近くの修道院の僧侶の作品であると信じている人もいるようです。

また、第二次世界大戦中には、敵がランドマークとして使うことを防ぐために緑色に塗られ、1969年の修復では、ロングマンを何マイルも離れたところから見えるようにコンクリートブロックに置き換えられ、定期的に塗装されているのだとか。

Source; Wikipedia
By Cupcakekid at English Wikipedia, CC BY 2.5,
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いずれにしても、人間の興味をそそるような、謎というか神秘的な印象を現代に残していることには間違いないですね。

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