シェークスピア語録-There's the Rub

シェイクスピアの戯曲『ハムレット(Hamlet)』第 3 幕第 1 場の冒頭に「このままでいいのか、それとも、いけないのか、それが問題なんだ(To be, or not to be, that is the question)」という有名なセリフがあります。ハムレットがこのまま運命を受け入れ耐え忍んで生きるのと、勇敢に立ち向かって命を絶つのと、どちらが立派な生き方と言えるのだろうかと2択に悶々と思い悩んでる場面です。そして更にあーだこーだと語りながら、同じような韻を踏んでいるようなセリフが登場します。「死ぬ、眠る… 眠るというのは、おそらく夢を見る。それが問題なんだ。その死の眠りの中で、どんな夢を見るのか?(To die, to sleep; To sleep; perchance to dream: ay there’s the rub: for in that sleep of death what dreams may come?)」という個所です。それが問題なんだと日本語では同じ言葉を使いましたが、英文では『there's the rub』が使われています。この『Rub』も、もちろん名詞では「こする」とか「摩擦」という意味がありますが、それがなぜ「問題」とか「難しいこと」という意味なのかが疑問でした。

この意味での「こする」とは、「欠点」や「障害」を意味し、もともとは古代のボールゲームに由来するそうです。ボッチャ・ボール(bocce ball)と呼ばれるゲームの祖先にあたるようなのですが、自分のボールを転がして、対戦相手のボールよりジャックと呼ばれる小さな固定ボールに向かって転がす。つまりは氷上で行われるカーリングに似ている競技だそうです。芝生のグリーンでは、摩擦によってボールが思った方向に転がらず、止まってしまったりコースから外れるため「障害」という概念から、「問題」というような表現が生まれたそうです。シェークスピアが作った「言葉リスト」に載っていたのですが、深堀してみたら、厳密にこの表現はシェークスピアが生み出したと言うより、以前から存在していたようで、『Some small rubs』や『Rub of the green』など、「不運・災難で予測できないもの」と言う意味で、比喩的に使用されていたようです。その後、シェークスピアが抽象的な「障害・問題」を表す用語として一般に広めたってことなのかもしれません。

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