シェイクスピア語録-Addiction

『アディクション(Addiction)』とは、(薬物への)依存、中毒、(趣味などへの)熱中を意味する言葉として使われています。もともとこの単語は、仕事や活動などに身を捧げる、時間をさくといった「献身、熱心、強い傾向」を意味する『addictionem』という言葉をローマ人がもたらしたことに由来すると言われています。そしてシェイクスピアの時代には、まだ現代の「依存症」というような深刻な意味は使われていませんでした。シェイクスピアの作品『ヘンリー5世(Henry V, Act I, Scene I)』において、カンタベリー大主教とイーリー司教との会話の中で次のように表現されています。
CANTERBURY: Which is a wonder how his grace should glean it,
Since his addiction was to courses vain,
His companies unletter’d, rude and shallow,
His hours fill’d up with riots, banquets, sports,
And never noted in him any study,
Any retirement, any sequestration
From open haunts of popularity.
意訳すると 「(ヘンリーが)多くのことを学んだというのは驚くべきことだ。なぜなら、彼は読み書きのできない、無学で浅はかな仲間たちとずっと時間を無駄に過ごし、騒ぎを起こしたり、宴会を開いたり、遊戯に時間を費やしていたからです。真面目に勉強していたとか、公衆の場から遠ざかり、引きこもっていたなどという話は耳にしたこともない」。つまり、カンタベリー大主教はヘンリーが中毒者であると言っているのではなく、無学な友人たちとチャラチャラ遊び戯れ、無駄に時間を費やす傾向にあり、勉強していたと言うような噂もなければ、常に公衆の面前にいたくせに、いつの間に神学の知識を得たのやら、知っていたことにビックリだという内容です。確かに、ここでは好きなことに専念している強い傾向・状態のような意味で使用されていますね。


また、『オセロ(Othello, Act II, Scene II)』では、
HERALD; It is Othello's pleasure, our noble and valiant general, that, upon certain tidings now arrived, importing the mere perdition of the Turkish fleet, every man put himself into triumph; some to dance, some to make bonfires, each man to what sport and revels his addiction leads him.
意訳すると「トルコ艦隊が完全に破壊されたという知らせがもたらされたので、我々の高貴で勇敢な将軍オセロの願いは、皆で祝福することだ。踊る人もいれば、焚き火を組む人もいて、誰もが飲んだり騒いだり自分の好きな楽しみ方で祝うことができる」と言う感じでしょうか。『アディクション』については、シェークスピア本人が作り出したというより、もともと存在した言葉を改めて「好きなことへ専念する強い傾向」というように定義したという解釈なのだと思います。そういえば現代英語では、「買い物依存症(shopaholic)」や「仕事中毒、ワーカホリック(workaholic)」など、接尾辞「-holic」を追加することで依存症を示す言葉もありますね。

因みに、2001年に南アフリカ共和国の首都プレトリア(Pretoria, Republic of South Africa)にあるトランスバール博物館(Transvaal Museum/現在はディツォング国立自然史博物館; Ditsong National Museum of Natural History)の研究科学者が、ウィリアム・シェイクスピアの家にあった24本のパイプの破片を分析したところ、大麻、コカイン、幻覚剤のナツメグ抽出物の痕跡が発見されたそうです。実際にシェイクスピア自身がドラッグを使用していたのかまではわかりませんが、24本もパイプがあった訳ですから、もしかしたら使っていたかもしれませんし可能性としては否定はできませんね。『アディクション』が、依存症という今日のネガティブな意味合いを帯びたのは、20世紀にアヘン依存症の知識が広がってからと言われています。

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