1580 ドーバー海峡地震
日本は地球でも地震が起きやすい場所に位置する地震大国。近年はあちこちで特に巨大地震による被害を多く耳にする気がします。2024年も能登半島地震という衝撃的な年明けでした。様々な地域における地震のニュースに加え、自分自身、宮城県沖地震(1978)と東日本大震災(2013)を経験しているので、再び悪夢を見る思いでした。今回被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。
ウィリアム・シェイクスピア(William Sharkespear)の作品『ロミオとジュリエット(Romeo and Juliette; Act 1, Scene 3)』第一章第三幕の中で、ジュリエットと乳母の会話に次のようなセリフがあります。
乳母にはジュリエットと同じ日に生まれたスーザンという赤ちゃんがいましたが、悲しいことに亡くなってしまいました。乳母はジュリエットの世話人だけでなく、文字通り母親に代わって乳を飲ませて養育していたので、地震が起きた日はジュリエットが断乳の時期でもあり、乳母は苦いハーブの「よもぎ」を乳首に塗ったんだから忘れないわよぉと語っている場面です。このように、エリザベス朝時代には、赤ちゃんの離乳を促すために苦い味のよもぎを乳首に塗っていたんですね。
よもぎはさておき、何気に『地震(the earthquake)』について言及しています。ここで話されている地震というのは、他説ありますが、1580年にイギリスで起こった『ドーバー海峡地震(Dover Straits earthquake)』を暗示しているのだろうと言われています。もちろんそれ以前にも地震は発生しており、1382年にドーバー海峡地震がありましたが、今回は1580年の地震に注目してみました。
Nurse;…On Lammas-eve at night shall she be fourteen;
That shall she, marry; I remember it well.
'Tis since the earthquake now eleven years;
And she was wean'd,--I never shall forget it,--
Of all the days of the year, upon that day:
For I had then laid wormwood to my dug,
乳母;...今度の収穫祭前夜には、お嬢様は14才におなりです
そうなればお嬢様は結婚できるでしょう。 よく覚えていますとも。
震災から11年が経ちました。
それはお嬢様は乳離れした日ですから――私は決して忘れません――
その年のその日は
私は自分の乳首によもぎを塗っていたのですから。
Source; The best (and worst) of Britain's earthquakes | UK News | Sky News |
1580年4月6日、午後6時頃に発生したドーバー海峡地震がどのようなものであったのか。記述によれば地震の震源地はマグニチュード約6.0と推定されており、揺れは長いものではなかったようですが、ロンドン市内でも6本の煙突とウェストミンスター寺院の尖塔が倒壊し、ウェストミンスターの鐘が鳴らされたと伝えられています。死傷者はイングランドで落下した石材の下敷きになった2名、フランスで多数、フランドルで数人だったと言われています。海峡では船が転覆したり、ドーバーでは土砂崩れが起きています。実際の被害はイギリスよりフランスの方が大きかったんですね。
地震に限りませんが、現代の私たちが物理的な現象と認識しているこういった自然の災いは当時、不吉なもの、神の怒り、悪魔の仕業とみなされていました。遠い昔、イングランドがデーン人に襲撃されたのも、征服王ウィリアムに征服されたのも、神の言葉を無視したためだという考え方があったようです。イングランド国教会は当然ながら地震とキリスト教とを結び付け、祈りを広めようとしました。1580 年に発行されたパンフレットには、地震の説明と、地震は神の不快のしるし、つまり罪深い生き方を改め、習慣を改め、神が与えた秩序を守るように、人々に警告するように記されています。このような概念は現代でも何となく理解できます。自然災害に限定されるわけではありませんが、例えば「罰が当たる」や「神罰が下る・仏罰をこうむる」というように、悪行の報いとして神仏より苦しみを与えられるという言葉が存在するからです。迷信というにはやや深みのある言葉というか、より教訓的な意味合いのある言葉です。
近年では、イギリスでの自然災害というとストーム被害や洪水などが顕著ですが、地震が全くゼロという訳ではありません。地震がしょっちゅう発生する日本で育った自分は、イギリスで日本のような地震が起きたら被害は大きいんだろうなぁとか、煙突が落ちてきそうだなぁとか、日本じゃあんな高いところに瀬戸物は飾らないだろうなぁとか、ふと思ったりすることもあります。どの時代においても、自然災害は驚くべき現象であり、恐怖を覚えたりするもので、シェークスピアが実際に地震を体験したのかは分かりませんが、『ロミオとジュリエット』の作品の中で「地震」について触れるほど、彼にとっても強く印象に残る出来事だったに違いありません。
追記;今年はブログ記事のスタートが出遅れましたが、これまで通り継続予定です。
参照;
- Wikipedia
- The Oxford Shakespeare, The Complete Works, Oxford, Stanley Wels and Gary Taylor
- Illustrated Shakespeare Dictionary, Oxford, David & Ben Crystal
- Shakespeare's London on 5 Groats a day, Thames & Hudson, Richard Tames
- Shakespeare and the natural world [infographic] | OUPblog
- 25 May - A great shaking of the ground - a Tudor earthquake - The Tudor Society
- ‘Extended’ Breastfeeding in the Elizabethan Period - Living History (juliamartins.co.uk)
- Earthquakes in London? Really! | AIR Worldwide (air-worldwide.com)
- Earthquakes of the South of England - Geology Guide (new version) (soton.ac.uk)
- DOVER STRAITS (bgs.ac.uk)
- Significant British Earthquakes (bgs.ac.uk)
- The best (and worst) of Britain's earthquakes | UK News | Sky News
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