シェークスピア語録-candleholder

『candleholder(キャンドルホルダー)』には「燭台、ロウソク立て」の意味があります。燭台といって個人的に思い出すのが「レ・ミゼラブル」の物語です。ヴァルジャンを救い、人生を改めるきっかけとなった一つが燭台でした。銀の食器を盗んだにもかかわらず、ミリエル司教は「あげたもの」と言い、さらに忘れ物をしていると言って差し出したのが銀の燭台でした。そして司教は「銀器を役立てて、誠実な人間となるために、ヴァルジャンの魂を買って、それを神に捧げた」と言い、それらはヴァルジャンにとって生涯の宝となりました。この映画やドラマでは、3本くらいロウソクを立てられる立派な燭台が登場したりしますが、このように装飾を施した大型の枝分かれしたキャンドルホルダーを「キャンデラブラ(candelabra)」、「キャンディラーブラム(candelabrum)」などと表すこともあります。この単語はラテン語から来ており、「candelabra」は元々「candelabrum」の複数形でしたが、時間の経過とともに英語の用法が変化し、現在ではいずれも単数形(複数形は‐s)として使用されています。


そんな「キャンドルホルダー」という単語がちょっと面白い表現でシェークスピアの作品『ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet, Act 1, Scene 4, 37-38)』に登場します。仲間たちがキャピュレット家のパーティーに行ってちょろっと踊って帰ろうぜという中、気乗りがせず、踊る気分じゃなかったロミオのセリフです。ジュリエットと出会う前ですね。
A torch for me. Let wantons light of heart tickle the sense-less rushes with their heels, for I am proverbed with a grandsire phrase. I’ll be the candle-holder and look on. The game was ne'er so fair, and I am done.
私に明かりを。陽気な淫乱どもは踊らせておけばいい。私は祖父に教わった古い諺にあるように、ろうそく立てになって傍観するつもりだ。ゲームは楽しそうだが、もう飽きたよ。(意訳)
ロミオが言う祖父に教わった古い諺とは、おそらく「優れたろうそく持ちは優れた賭博師である(A good candle-holder proves a good gamester)」を指していると言われています。つまりロウソク持ちは傍観者であり、傍観者の方がプレイヤーよりも冷静に最善の動きを見抜く可能性が高いことから、傍観者は賭博には負けないということを表しています。でも、ここではロミオはゲームに勝つ為に傍観者になると言っているのではなく、単にこのゲームに興味がないので、参加しないで見ているよってことです。このフレーズは、おそらく教会で司祭が読むためにろうそくを持ち上げる給仕人から派生したものと考えられています。奥が深いですね。

因みに、ここで言う「wantons light of heart  (n)」は「誘惑者、快楽を求める者」を意味しており、この部分を直訳すると「陽気な淫乱どもはに無感覚なイグサをかかとでくすぐるがままにさせておけ」?みたいな?感じの意味になります。「イグサ(rushes)」については、私は床に散らばったイグサを真っ先に想像したのですが、馬小屋のような感じがして違和感がありました。調べてみると、床にイグサを敷き詰めるという記述は、古くから様々な作品に残されているようで、イグサで編んだマットを指していました。つまり「イグサ」=「イグサマット/イグサカーペット」の略語のように使われていたのです。そして生きた植物とは対照的に、ここでは刈られて死んだイグサを指しており、ダンサーの足でくすぐられても「感覚の無い、無感覚(sense-less)」なイグサという表現のようです。

イグサのイメージ

イグサ(Juncus effusus)
Source; Wikipedia

実はイグサ(rush)は、粗雑なキャンドルの材料としても用いられていたんですね。この歴史は古代エジプトにまで遡るそうですが、シェイクスピア時代「ラッシュ キャンドル(rush-candle)/ラッシュライト(イメージ参照はこちら)」といって、溶かした低級動物の脂肪(獣脂)にイグサを浸して作られたシンプルなロウソクがあり、かなり悪臭のする煙を出していたそうです。製造コストが非常に安く(または無料)だったこともあり、貧しい家庭にとって唯一の人工照明手段でした。そのため「貧乏人のろうそく」というあだ名が付いていたそうです。一方、貴族の家で使われるロウソクは、より高級な(臭いの少ない)獣脂から作られ、鋳型に流し込み、ろうそく立てにぴったり収まるような均一なサイズで作られていました。また、蜜蝋キャンドルは高価で城や大聖堂で使用され、貴族は特別な機会にのみ使用していたようです。

キャンドルに関しては、キャンドルを収めておく箱を「キャンドル ケース(candle-case)」、夜遅くまで研究、勉強をして無駄にロウソクを使う人を「キャンドル ウェスタ―(candle-waster)」などと表現したり、また、人生の儚さを指す言葉として「ブリーフ キャンドル(a brief candle)」などの比喩表現もありますね。

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